第1366話 再会する光と影(1)
「はあ・・・・・・母さんと穂乃影に何て言おう・・・・」
紫織からほぼ留年が確定しているという衝撃の事実を告げられた影人は、トボトボと廊下を歩き沈んだ気持ちになっていた。なんだろうか、こう今回ばかりは中々事実を受け止めきれないというか。スプリガンになって色々衝撃的な事を知ったり経験した影人であるが、今回の事は違う意味で衝撃的だった。
「しかし、留年か・・・・・・はあー、留年か・・・・・・」
昇降口に辿り着いた影人は力が抜けた手で上履きと靴を交換すると、重いため息を吐いた。ダメだ。さすがの自分といえども、これは今日1日は確実に引き摺る。
「こんちくしょうが、春の陽気が苛つくぜ・・・・・・」
外に出た影人が、春の太陽に前髪の下の目を細めながらそう呟く。今の影人の心は全てを暖かに照らすこの光とは真逆のものだ。
影人が失意のどん底で重たい足を進めようとした時だった。影人の腹がぐぅっー、と鳴った。
「・・・・・・そう言えば、昼飯時か。ははっ、こんな時でも腹は減るかよ。ええと、財布は・・・・・・」
影人は自分のブレザーの左ポケットを弄った。すると、中から黒い財布が出てくる。影人は財布の中に何円お金があるかを確認した。
「1230円か・・・・・・まあ、昼飯は食えるな。土曜って学食空いてんのかな? 取り敢えず、昼飯は外で食うから母さんに連絡してっと・・・・・・」
ブレザー右ポケットに入れていたスマホを取り出し、昼飯はいらない旨をメッセージアプリで伝える。すると、すぐに日奈美から了解という返信が来た。
「よし、これで大丈夫だな。んじゃ、まずは学食が空いてるか確認するか」
影人は踵を返し、再び校舎に入ろうとした。するとその時、昇降口から1人の少女が出てきた。
「あ、陽華。今部活終わったところ。うん、今日は午前だけだから。それで、お昼ご飯はどうするの? 一緒に食べる?」
昇降口から出てきたのは1人の少女だった。ロングヘアーの髪を揺らしたクールそうな少女である。少女はスマホで誰かに電話をしていた。
「っ・・・・・・!?」
その少女の姿を見た影人は思わず立ち止まり、固まってしまった。なぜなら、その少女の事を影人はよく知っていたからだ。クールそうな見た目の割にとんでもないポンコツ。だが、人望はある少女。
これくらいの情報までなら、風洛高校の生徒は全員知っているだろう。なにせ、彼女と、彼女の相方はこの高校では有名人だから。
だが、彼女と今ここにはいない彼女の相方である少女が、人々のために――光導姫という存在になって戦っていたという事は、ほとんどの者たちが知らないだろう。
「?」
影人が固まって少女を見つめてしまっていた為だろう。少女は不思議そうな顔になり、影人の方を見つめてきた。影人の姿を見た少女は、
「っ!?」
衝撃を受けた顔になると、影人同様に固まった。スマホからは『明夜ー? どうしたの?』と声が流れるが、少女はとてもその声に反応できる余裕がなかった。
「き・・・・帰城・・・・くん・・・・?」
しばらく互いに固まっていた影人と少女だったが、少女が掠れたような、震えたような声でそう言葉を漏らした。その呟きを聞いた影人は、ゆっくりとその首を縦に振った。
「・・・・・・ああ、そうだ。久しぶりだな・・・・・・月下」
影人が少女の名字を呼ぶ。そう。その少女は、かつて影人がスプリガンとして影から守っていた少女の1人。影人が消える3か月前の光と闇の最後の戦い。その戦いでレイゼロールを浄化した光導姫の1人。
その少女の名前は、月下明夜といった。




