第1363話 前髪、◯◯する(3)
「ええ、信じてもらえないかもしれませんが、実は・・・・・・」
真剣な顔を浮かべる紫織に、影人は自身も真剣な顔になると、昨日日奈美と穂乃影に話したものと同じ話をした。すなわち、宇宙人に攫われていたという荒唐無稽、もといバカみてえな話である。
「・・・・・・って事なんです。言っておきますが、俺の気は狂ってません。至って正気です。これが、俺がみんなの記憶から消えて、約3か月間失踪していた理由です」
「・・・・・・・・・・・・」
数分後。影人が紫織に嘘の話を終えた。影人の話を聞き終わった紫織はしばらくの間呆気に取られてたような、唖然としたような顔を浮かべていた。
「・・・・・・帰城。1度だけ聞く。あくまで確認だ。お前・・・・・・その話は本気なんだな? 嘘はついていないんだな?」
ようやく少しは反応出来るようになったのか、紫織は右手を顔に当てながら、そう聞いて来た。
「ええ、誓って嘘じゃありません。信じられないでしょうが、これは本当の話です。じゃなきゃ、こんな話を真面目に出来ませんよ」
影人は紫織のその問いに、即座に頷いた。その首肯の速度はあまりにも速かった。全く以て罪悪感も、嘘がバレるかもしれないという不安や心配すらないという感じでなければ、そのような速度で首を振れないだろう。さすが前髪野郎。やはり人ではない。クズ野郎である。
「だよな・・・・・・流石にこんな場面で嘘はつかないよな・・・・・・しかし、宇宙人に攫われてたね・・・・・・そうか、そうか・・・・・・」
真剣に頷く影人を見た紫織は、変わらずに頭に手を当てながらそう言った。そして、またしばらく無言になると、頭に当てていた手を離した。
「・・・・・・正直、普通なら信じないよ。大真面目にそんな事言ってる奴がいたら、私はそいつを精神科医に連れて行く。そう言う意味ではお前もと言いたいところだが・・・・・・お前の場合、現に有り得ない現象が起こってるからな・・・・・・みんながお前の事を忘れてて、一斉に昨日に思い出したっていう、フィクションみたいな事が」
紫織はどこか疲れたようにそう言うと、こう言葉を続けた。
「お前の話は現在の世界の技術じゃ説明がつかない。それこそ、無理やり説明しようと思ったら、お前が言った宇宙人がどうたらこうたらの、SFみたいな話になる。じゃなきゃ、私ら全員が急に狂った、みたいな話になるからな。それはないし、私はそうだったなんて信じたくはない。今回の話に限れば、お前の話はある意味合理的だ」
「では、先生・・・・・・」
影人が何かを促すように言葉を挟む。影人の言葉の意味を理解した紫織は、仕方がないという感じで頷いた。
「どうやら、信じるしかないらしい。認めたくはないがな・・・・・・」
「ありがとうございます」
紫織が呟いた言葉を聞いた影人は、真摯な顔で軽く頭を下げた。その感謝の言葉は、自分の話を信じてくれた事に対する感謝の言葉だった。




