第1355話 零無とレイゼロール(4)
「・・・・・・ふん。確かに、お前の言った事実に衝撃は受けた。我がどのようにこの世に誕生したか。その背景を唐突に知ったのだからな。・・・・・・だが、それを知った今でも関係はない。我は奴が気に食わん。ゆえに、我は奴と迷いなく敵対しよう。例え、奴が我の創造主であろうともな」
レイゼロールは1度瞳を閉じ、改めてその美しいアイスブルーの瞳を開くと、いつもと変わらぬ口調でそう言った。言葉通り、その言葉には迷いのようなものは感じられなかった。
「・・・・・・そうですか。あなたは強いですね。どうやら、私の懸念は杞憂だったようです」
レイゼロールの言葉を聞いたシトュウはポツリとそう言葉を呟いた。レイゼロールの言葉をシトュウ同様に聞いていた、影人、ソレイユ、シェルディアはどこか安心したような笑みを浮かべていた。
「ありがとうシトュウさん。零無の力がどういうものなのかは分かった。『終焉』よりも強い力となると相当だな・・・・・・じゃあ、次は零無の力にどうやって対抗するかって話だな。取り敢えず、シトュウさんは力を貸してくれるんだよな?」
影人が話を変え、シトュウにそう言った。シトュウは影人の言葉に頷く。
「ええ、それはもちろんです。そもそも、私がいなければ、零無とは戦いにすらならないでしょう。これはあなた達を過小に評価しているとか、そういうものではありません。これはただ、そういう事実なのです」
「レイゼロールと嬢ちゃんがいても、その評価ってマジかよ・・・・・・力を半分でも取り戻した零無はそんなにヤバいのか・・・・・・」
シトュウが述べた事実に、影人は難しい顔になった。零無はどうやら桁違いに強力なようだ。影人は改めてその事を自覚させられた。
「ええ。ですが、レイゼロールがこちらにいる事は大きいです。私と零無の力は現在完全に均衡で、レイゼロールの『終焉』の力は零無にも届きますからね。そこに異世界の吸血鬼の力、その他の戦力が集められればと仮定すれば・・・・・・状況はこちらに有利です。私が零無を完全に食い止めれば、零無に隙は生じますから」
「っ、そうなのか・・・・・・正直、その言葉はありがたいな。シトュウさん、これは一応の確認なんだが、零無をまた封じる事は出来ないんだよな。俺がかつてやったみたいに」
「それは極めて難しいでしょう。あなたが零無を封印出来たのは、あくまで零無が弱体化していたからです。それでも、あなたが零無を封じる事が出来たのはやはり謎ですが・・・・・・」
影人のその言葉に、シトュウは首を横に振った。正直、人間が代償を支払ったからと言って、零無を1度封印する事が出来た事は、シトュウは未だに納得出来ないが。影人が使ったその呪具が、尋常ではなく強力な物だった。シトュウは今はそう考える事にしていた。
「そうか・・・・・・まあ、そうだよな。いや、悪い。可能性の話として聞いただけだ。別に、零無の奴を殺す事を躊躇ってるとか、そういうのじゃないから安心してくれ」
「「「っ・・・・・・」」」
影人がシトュウに放った言葉を聞いた、ソレイユ、レイゼロール、シェルディアが一瞬その表情を険しくする。それは、影人が零無を殺すと言った箇所に反応してのものだった。
「まあ、今の俺はただの一般人。零無の奴を殺すなんて無理だけどな。俺に出来るのは、ただの囮役だけだ」
「いえ、あなたの中には・・・・・・いや、そうですね。戦う役目は私たちに任せてください。後、これは今というか改めての確認になりますが、あなた達は私と共に戦ってくれるという理解でいいのですね?」
シトュウがこの机に着いている者たちの顔を見る。シトュウの言葉に、ソレイユ、ラルバ、レイゼロール、シェルディアは頷いた。
「もちろんです!」
「はい。僕に出来る範囲でなら」
「当然だ」
「影人のためだもの。当たり前だわ」
4人のその様子を見た影人は、一言こう言った。
「・・・・・・ありがとう」
「何を言ってるんですか! 今度は私たちがあなたの力になる番です! 礼なんていりませんよ!」
「うん、そうだね」
「そういう事だ」
「ええ、そういう事ね」
影人が述べた感謝の言葉に、ソレイユ、ラルバ、レイゼロール、シェルディアはそう言った。ずっとスプリガンとして、影人は1人で暗躍してきたのだ。戦いを終わらせるために。ならば、今度は自分たちが影人に力を貸す番だ。
「・・・・・・分かりました。ならば、勘定に入れさせてもらいます。後は――」
それから、6人は細々とした事を話し合った。だが、結局零無がいつ仕掛けてくるかという事は分からないため、具体的な話はあまり進まなかった。
「取り敢えず、今日の話はこれくらいとしておきましょう。零無がいつ仕掛けてくるかは分かりませんが、今日明日という事はないでしょう。状況の確認と戦いへの合意。この事を話し合えただけでも、今はよしとするべきです」
「・・・・・・そうだな。正直、もうけっこうくたくただし、今日はもうこれくらいにするか」
数十分後。シトュウが一同にそう告げた。シトュウの宣言に影人が頷く。既に2〜3時間は話している。休憩を入れても、疲れはかなりのものになっていた。
「そうね、そうしましょう」
続いて、シェルディアも頷く。シェルディアに続き、ソレイユ、ラルバ、レイゼロールも同意を示すように頷いた。
「ふぅ・・・・・・シトュウさんはこの後どうするんだ? やっぱり真界に戻るのか?」
「ええ。零無の事を他の真界の神々にも伝えなければなりませんからね。ですが、またこの世界に降りて来る予定です」
「そうか。了解だ。それじゃ、またって事で」
影人は軽く伸びをして、残っていたバナナジュースを飲み干した。解散の空気が場に流れ始め、影人以外の者たちも、残っている飲み物を飲んだり、お手拭きで手を拭いたりしていた。
「よし、じゃあ俺も家に帰るか」
影人が何気なくそう呟くと、隣に座っていたシェルディアが少し不思議そうな顔を浮かべていた。
「あら? そう言えば、影人が消えて3ヶ月くらい経っているけど、その辺りの整合性はどうなってるのかしらね。やっぱり、3ヶ月間失踪してたみたいな感じになるのかしら」
「・・・・・・・・・・・・え? お、俺が消えてからそんなに時間が経ってたのか・・・・・・? マ、マジ・・・・?」
シェルディアの言葉を聞いた影人は愕然としたように、そう言葉を漏らした。ナニソレ。キイテナイ。
「ええ、マジよ。で、あなたはどうするつもりなの影人? このまま普通に家に帰るのは難しいと思うけど」
シェルディアは影人の質問にそう答えると、逆にそう聞いてきた。
「え、あ・・・・・・ど、どうしよう・・・・?」
シェルディアのその質問に、前髪は情け無い事極まりない声でそう言葉を漏らした。
前髪野郎に――現実が襲い来る。




