第1353話 零無とレイゼロール(2)
「・・・・・・シトュウさん。その『無』の力っていうのは?」
「一言で言えば、全てを無くす、消し去る力です。この世のありとあらゆる森羅万象、現象すらも無くせる力。その力の前では、全ては児戯。ただ冒涜されるのみ。その力の前では死なないという事すらも意味を成さない。それが、『無』の力です」
影人の質問にシトュウはそう答えた。その答えを聞いた影人は何かに気づいたような顔を浮かべ、
「その『無』の力ってやつ・・・・・・なんだか、『終焉』の力に似てないか?」
そう言葉を呟いた。
「っ・・・・・・」
「そ、そうですね。言われてみれば・・・・・・」
影人の呟きを聞いたレイゼロールは、また零無と自分の似ている点に、不愉快さから顔を歪ませ、ソレイユは影人の呟きに同意するようにそう言った。
「・・・・・・そうですね。確かに、『無』の力は『終焉』の力に似ています。ですが、それは逆なのです。『終焉』の力が、『無』の力に似ているのですよ」
「それは・・・・・・どういう意味かしら?」
シトュウの指摘を聞いたシェルディアがその目を細め、シトュウにそう聞いた。シトュウの指摘は明らかに何かを知っているがゆえの指摘だった。
「・・・・・・いいでしょう。この話は先ほど関係がないと思い、話す事はしませんでしたが・・・・・・話しておいた方が色々と理解はしやすいでしょう。ですが、その前に1つだけ確認を。・・・・闇の女神レイゼロール。あなたはこの話を聞く勇気がありますか?」
「我がだと・・・・・・?」
突然、シトュウに名指しされそう言われたレイゼロールはその顔を疑問の色に染めた。レイゼロールには、シトュウがなぜ自分にだけそんな確認を取るのか全く分からなかった。
「・・・・・・お前が何を話そうとしているかは知らんが、愚問だな。今の我に恐れるものは何もない。そう、何もな・・・・・・」
レイゼロールはチラリと隣にいる影人を見ながらそう言った。1番大切な人間が、自分の理解者が隣にいるのだ。ならば、何を恐れる必要があるだろうか。
「もったいをつけずに話せ。勇気など、出す必要すらない」
「・・・・・・そうですか」
確かな声でそう答えたレイゼロール。そんなレイゼロールを見たシトュウは静かに頷くと、こう言葉を続けた。
「いいでしょう。ならば、話します。レイゼロール、後は今は死し、冥界の神となっているあなたの兄であるレゼルニウス、あなた達2人の特別な権能であった『終焉』の力。それが零無の『無』の力に似ている理由は単純と言えば単純です。なぜなら――」
そして、シトュウは衝撃の言葉を口にした。
「――あなた達2人は、零無がその存在を創ったのですから。自身の一部を模倣して」
「「「「っ!?」」」」
「なっ・・・・・・」
シトュウが告げたその事実。それを聞いたソレイユ、ラルバ、影人、シェルディアの4人は驚愕し、レイゼロールは凄まじいショックを受けたような顔を浮かべた。
「レイゼロールとレゼルニウスを、零無が創った・・・・・・? シ、シトュウさん。それはいったいどういう意味なんだ・・・・・・?」
未だに衝撃を受けた顔を浮かべたまま、そう聞いたのは影人だった。影人はシトュウの言葉の意味を理解出来なかった。まあ、それは影人以外の者も同じだろうが。
「言葉通りの意味ですよ。レイゼロールとレゼルニウスは、零無が『空』であった時に創造した神です。しかも、レイゼロールとレゼルニウスの神産みは・・・・・・補足すると、神産みとは言葉通り神が新たに生まれる事を言います。その神産みは正常なものではなく、零無の独断でした。つまり、レイゼロールとレゼルニウスは一種のイレギュラーなのです。でなければ・・・・・・我々真界の神を含めた全ての命を終わらせる事が出来る、『終焉』という危険な力など、ただの神に付与されません。ましてや、その力を制約もなく地上で振るえるなど」
少し長めの言葉で、シトュウは影人の問いに答えた。シトュウの言葉を聞いた一同は少しの間、呆然としていた。




