第1350話 2度目の帰還(4)
「ん。レイゼロールとそっちの人は?」
注文をメモしたシエラは、レイゼロールとシトュウにそう聞いた。ソレイユはまだメニューを見ていて時間がかかると思い、ソレイユは数には入れなかった。
「・・・・・・冷たいコーヒーでいい。後、甘味はあるか?」
レイゼロールが注文をすると同時に、そんな質問をシエラにする。ここに来るのは初めてで、かつソレイユがメニューを独占しているため(本人は興奮からの無意識で気づいていないだろうが)、メニューが分からないからだ。隣だから、チラリと見ればいいと思うかもしれないが、レイゼロールの方からではメニューは見えなかった。
「色々とあるよ。でも、大体の物は作れるから、食べたい物があったら言ってみて」
「ならば・・・・・・パフェを頼む。作れるか?」
「出来るよ。じゃあ、パフェを1つね」
レイゼロールの問いかけに頷いたシエラがメモにパフェを追加する。隣でレイゼロールのオーダーを聞いていた影人は少し意外そうな顔を浮かべた。
「へえ、お前甘い物好きなのか。ちょっと偏見っぽい言い方になるが、お前もやっぱり女子なんだな」
「おい、それはどういう意味だ影人」
影人の言葉に、レイゼロールはムッとしたような顔になる。その顔を見た影人は、ニヤニヤとした顔を浮かべる。
「いや別に。ただ、可愛いところあるじゃんって思っただけだ」
「っ・・・・!? か、可愛いだと・・・・・・!? ふふ不愉快な事を言うな!」
「ははっ、悪かったよ」
影人にそう言われたレイゼロールは、恥ずかしそうにカァッと顔を紅潮させた。そして、プイッと影人から顔を背けた。その様子を見た影人は面白そうに笑った。
「・・・・・・」
そんなレイゼロールと影人のやり取りを見ていたシェルディアは複雑そうな顔を浮かべた。いつもならば、面白くないといった顔を浮かべるところだが(それを言うならばソレイユもだろうが、ソレイユは現在メニューに夢中なので、2人のやり取りには気づいていない)、影人に恋愛感情がないと知った今、影人の言葉の意味が、シェルディアには今までとは違うように感じられたから。
「ふむ・・・・・・なら、私はオレンジジュースとパンケーキという物をお願いします。しかし、飲み物や食べ物を食するのは随分と久しぶりですね」
一方、隣のソレイユのメニューをチラリと見たシトュウは(シトュウはレイゼロールとは違い、角度的に見る事が出来た)、そんな注文をした。シエラはシトュウのメニューもメモに書き付けていく。これで残るはソレイユだけだ。
「えーと、えーとじゃあ・・・・・・これとこれとこれをお願いします!」
ソレイユは悩み抜いた末に、メニューに書かれていたコーラとカツサンド、それにアップルパイを指差した。
「ん、承った。じゃあ、先に飲み物持ってくる。食べ物はちょっと時間が掛かるから待ってて」
シエラは頷きそう言うと、メニューをソレイユから預かって店内へと戻って行った。
「さて、じゃあ影人。飲み物と食べ物が来るまで少しお話しましょうか。あなたが誰にも言わずに消えた事について」
「うっ・・・・・・」
ニコリと笑みを浮かべながら、シェルディアは影人にそう言った。だが、その目は全く笑っていなかった。正直さっきの自分の話のショックで有耶無耶になっていると思っていた影人は、マズイといった感じの顔になった。
「そうだな。なに、多少は加減してやる。だが、しっかりと反省はさせてやる。2度も我の前から勝手に消えた罰だ」
レイゼロールも冷たさの中に確かな怒りを宿しながら、そう言ってきた。両側をレイゼロールとシェルディアに挟まれている影人は、無意識にその肩身を狭くした。
(南無三、俺・・・・・・)
影人が最後に内心でそう呟くと、シェルディアとレイゼロールはその怒りを解放し言葉に乗せ、どうしようもない前髪を言葉でボコボコにしたのだった。




