第1348話 2度目の帰還(2)
「まあ、最初は最悪だと思ったが、俺がスプリガンになった事は今思えば必然だった。過去に行った事、そこでレイゼロールと出会った事を考えるとな。運命ってやつを俺は安易には信じたくねえが・・・・・・こればっかりは決まってた事なんだろう。だから、お前が気にする必要はない。本当にな」
「っ・・・・・・」
影人がそう言うと、少しだけ影人の隣に座っていたレイゼロールの表情が動いた。レイゼロールの表情が動いた理由は、単に自分の名前に反応しただけか、それとも何かを感じたのか。それは影人には分からなかったが、影人は言葉を続けた。
「後、同情はいらねえよ。俺は不幸自慢をしたり、同情してもらうためにこの話をしたんじゃない。必要だからしたんだ。それ以外に理由はねえよ。じゃなきゃ、俺は絶対に他人にこの話はしなかった。信用してるしてないの問題じゃない。俺がそう決めてたからだ。だから気にするな。俺もずっとこの記憶は封じてたから、割り切ってるとは全く言えねえが・・・・・・それでも、昔よりは整理がついてるつもりだから」
「影人・・・・・・」
影人の言葉を聞いたソレイユは悲しみと暖かさが混じったような声でそう言葉を漏らした。本当に、この少年は。優しすぎる、あまりにも。心が強過ぎる、悲しいほどに。影人の言葉が強がりでも何でもなく、ただ事実を述べているのだという事を、ソレイユはもう知っていた。付き合いはもうそれなりに長いから。
「・・・・・・いいえ。そこは、そこだけはあなたの方が違うわ。本当ならば、あなたという個人を尊重して、異を唱えるべきではないけれど・・・・・・敢えて言わせてもらうわ。あなたは、間違っている」
「嬢ちゃん・・・・・・?」
だが、意外な事に影人の隣に座っていたシェルディアがそんな事を言ってきた。影人は前髪の下の目を開き驚いたような顔を浮かべた。
「確かに同情は時としては、または個人の性格によっては不快と感じる事もあるでしょう。だけれど、同情されるというのは必ずしも悪ではない。なぜなら、同情するという事は、それだけその人の事が大切だと思うからよ。同情とは哀れみでもあり、おもいやりでもあるのだから」
「っ・・・・・・」
シェルディアの真摯な言葉。それを聞いた影人はどこかハッとした顔になった。
「だから、私やソレイユはあなたに同情するわ。今まで辛かったわね。1人でずっと背負い続けて来て。そして、よく頑張って来たわね。影人、あなたのその悲しいまでに強い心に賞賛と暖かさを。もう1人で背負わないでいいのよ」
「あ・・・・・・」
真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐにシェルディアは影人にそう言ってくれた。その言葉を送られた影人は、どこか間抜けな声を漏らし呆然としてしまった。
「・・・・・・シェルディアの言う通りだ。お前のその気持ちは、心の有り様は理解できる。なにせ、兄さんとお前を失った後の我がお前と似たような心持ちだったからな。そんな我の言葉に説得力はないかもしれんが・・・・・・お前はもっと人を頼れ。お前は頼ってもいい事をしてきたのだから」
レイゼロールも影人に対してそんな言葉を述べた。そこには、影人に対する暖かな思いが確かにあった。
「は、ははっ・・・・・・まあ、そうなのかな。いや、多分そうなんだろうな。ソレイユや嬢ちゃん、レイゼロールの反応や言葉が正常で、正しいんだろうな・・・・・・」
自分に対する真摯な言葉を聞いた影人は、まだどこか戸惑ったような声でそう言葉を呟いた。
「・・・・・・悪い。そんな事を言われたのは、正直初めてだから、まだ戸惑ってる。多分、まだ俺は言われたみたいに素直にみんなを頼れない。だけど・・・・・・ありがとう。その言葉はちゃんと受け止める」
影人は照れたような、そして少し泣きそうな何とも言えない笑みを浮かべた。




