第1345話 真なる神を封ぜし者(4)
「ここ最近お前の様子が変なのは俺も日奈美さんも気づいてた。親だからな。でも、俺は旅行初日のここでのお前の発言を知ってたから、お前が何か隠してるんじゃないかと思ってたんだ。まあ、確信を持ったのは昨日の夕方にお前が帰って来た時だけど」
影仁は説明を続けた。
「で、本当についさっきだな。突然目が覚めたんだよ。ハッキリと何の前触れもなくな。その目覚めに俺は何かを感じたよ。それでふと周囲を見渡してみると、お前の姿がなかった。そこで、何となく分かったよ。お前はまたあの神社に行ってるんだってな」
「なるほど、それで親の勘と虫の知らせのブレンドか・・・・・」
影仁の説明を聞き終えた影人はポツリとそう呟いた。何か神がかり的なまでの偶然だが、その偶然に影人は救われたのだ。
「そういう事。昔からそういう勘だけは鋭いんだよ俺。で、急いでここに来てみたら、お前が虚空に話しかけてた。俺は最初意味が分からなくてしばらく観察してたら・・・・・何か急に闇色の腕が現れたり、女が現れたりってわけだ。俺はしばらくの間、状況を飲み込めなさすぎて呆然としてたよ」
影仁はやれやれと言った感じで一旦そこで言葉を切ると、一転、真剣な顔を浮かべた。
「で、影人。次は俺がお前に聞く番だぜ。お前はずっと俺たちに何を隠してた? さっきの女は、さっきの状況は何だったんだ?」
「っ、それは・・・・・・」
影仁にそう言われた影人は一瞬逡巡するような顔になったが、すぐに決心したような顔に変わると、首を縦に振った。
「・・・・・・分かったよ。全部話す」
そして、影人は影仁に全ての事を話した。零無との出会いから、今に至るまでの全てを。
「・・・・・・そうか」
全ての事を知った影仁は神妙な顔で一言そう呟くと、影人を抱き締めてきた。
「っ・・・・・・? と、父さん・・・・・・?」
「ごめんな・・・・・・本当にごめんな影人。もっと早くに気づいてやるべきだった。ごめんな、お前に全部背負わせちまって。しかも、お前は・・・・・・」
影仁は影人を強く抱き締めながら、そんな言葉を吐き出した。父親である自分が不甲斐ないせいで、影人は恋愛感情を失ってしまった。永遠に。それが影仁には悔しくて、申し訳なくて仕方なかった。影人は人生の選択肢の1つを制限されてしまったのだ。
「・・・・・・謝らないでくれよ。俺が何も言わなかったのが悪いんだから。父さんたちは何にも悪くないよ。本当に気にしないでくれ」
震える影仁の背にそっと手を回しながら、影人は笑みを浮かべた。そう。影仁が懺悔の言葉を口にする必要など何もない。
「・・・・・・それに、もう全部終わったんだ。だから、大丈夫だよ」
「っ・・・・・・そうだな。お前の言う通り、全部は終わった。分かった。お前がそう言ってくれるなら、もうこれ以上は何も言わない。じゃないと、いつまでも引き摺っちまうからな」
影人の言葉を受けた影仁はそう言うと、影人の体から手を離した。
「よし。じゃあ、そろそろ戻らないとな。しかし、影人。お前すげえ一夏の冒険したな。間違いなく今夏で1番の体験したのはお前だぜ」
「一夏の冒険じゃ片付けらないけどね・・・・・・でもまあ、世界は広がったかな。色々な意味で」
影人に気を遣っての事だろう。影仁が少し茶化すようにそう言った。影仁の気遣いに苦笑を浮かべた影人はそう言葉を呟いた。
「父さん、今何時か分かる? そろそろ、母さんたち起きてるかもしれないから、戻らないと心配されるよ。旅館に戻ろう」
「ああ悪い。急いで出てきたから時間確認できる物は今持ってないんだ。後、影人。悪いが・・・・・・」
影仁は困ったように自分の右頬を人差し指でポリポリと掻くと、
「旅館には1人で戻ってくれ。俺はお前と一緒には行けない」
そう言った。




