第1344話 真なる神を封ぜし者(3)
「クソッ・・・・・・!」
影人が悔しげに歯を食いしばる。結局、結局自分は――
影人がそう思った時、
「――いいや、そんな事はさせねえよ」
どこからかそんな声が響き、影人の前に1人の男がその体を滑り込ませて来た。零無の放った光は、その男の体に触れると、溶けるようにその男の体の中に消えていった。
「なっ・・・・・・」
「え・・・・・・」
そのまさかの光景に、突然の乱入者に、零無と影人は驚いたような顔を浮かべた。
「ま、まさか・・・・・・」
影人を呪いの光から救ってくれた男。その男の背中を見た影人はその目を大きく見開いた。自分よりも遥かに大きいその背中。その背中を影人は知っていた。なぜならばその背中は、何度も、何度も見た事があったから。
「何で・・・・・・父さん・・・・・・」
「よう、大丈夫だったか? 影人」
信じられないといったような声を漏らした影人にその男、帰城影仁は半身を影人の方に向けると笑みを浮かべそう言った。
「影人、取り敢えず話は後だ。今はお前のやる事をやれ」
呆然としている影人に、影仁は続けてそう言った。影仁にそう言われた影人はハッとした顔になる。
「っ・・・・・・うん、分かったよ!」
「よし、いい返事だ」
影仁が影人の前から退く。すると、影人の前に再び封印途中の零無の姿が目に入った。零無はもうほとんど石の中に引き摺り込まれ、露出している部分は既に顔と右腕だけになっていた。
「これで、今度こそ本当に終わりだ零無!」
「くそっ・・・・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
影人が宣言すると同時に、闇色の腕は最後の仕上げとばかりに力を更に強め、零無を石の中に引き摺り込んだ。顔が石の中に消え、最後に残った右腕も石の中へと引き摺られる。
その際、小さな、小さな透明の粒子が右腕から放たれた。その粒子は地を這うように移動し、影人の足に触れると溶けるように消えていった。だが、粒子のあまりの小ささと状況から、影人も影仁もその事には気が付かなかった。
そして、零無は石の中に完全に消え、封じられた。
「よ、よし・・・・・・はあ、はあ、はあ・・・・・・」
零無を封じた事を確認した影人は右手を下ろし、荒い息を吐いた。何だか、精神的にとても疲れた気分だ。
「大丈夫か影人? 気分は悪くないか?」
そんな影人を見て、影仁は心配そうな顔でそう聞いてきた。影人は小さな笑みを浮かべると、影仁にこう言葉を述べた。
「だ、大丈夫。ちょっと疲れただけだから・・・・・・それよりも・・・・・・」
影人は顔を影仁に向けると、こう言葉を続けた。
「何で父さんがここに・・・・・・? それに、さっきの行動・・・・父さんにも零無が見えてたの?」
それは影人にしてみれば当然の疑問だった。なぜ影人はここにいて、自分を庇えたのか。いったい、いつから影人と零無の事に気がついていたのか。
「ああ。と言っても、俺にもあの女が見え始めたのは、あの女が黒い腕に掴まれた時からだけどな。で、俺が何でここにいるかって言うのは・・・・・・まあ、一言で言えば親の勘と虫の知らせのブレンドかね」
「親の勘と虫の知らせのブレンド・・・・・・?」
影仁の言葉を聞いた影人は、不思議そうな顔を浮かべた。




