第134話 留学生 アイティレ・フィルガラルガ(2)
「――用事は終わったのか? 『巫女』」
「ええ終わったわ。・・・・・・・・あなたと顔を合わせるのは去年以来かしら、『提督』」
生徒会室のイスに腰掛けていた銀髪の人物の問いかけに、風音は緊張ぎみの声で答える。背を向けていた銀髪の少女が体を半転させて、その赤い瞳を風音に向けた。
「テイトク・・・・・・・・・ああ、私の光導姫の名は日本語でそう言ったのだったな」
「・・・・・・・こっちのあなたと会うのはこれが初めてだけど、とっても流暢な日本語を話すのね」
風音が提督と会った時は、光導姫に変身した姿でだけだ。
そして光導姫時の肉体は、各国の光導姫が協力できるように、全ての言語が理解できる状態になっている。それは守護者も同様だ。
ゆえに、風音は素の提督が日本語を話せることに驚いたのだ。
「まあな。母国に日本から来た友人がいて、彼女に教えてもらった。だが、そんなことはいいだろう」
提督と呼ばれた彼女は「それよりも」と言葉を続けた。
「さすがに光導姫の名で呼び合うのは日常生活に問題があるだろう。よって『巫女』貴様の本名を教えてはくれないか?」
「それは別にいいけど、ジリッツァって巫女のロシア語かしら? 一応、日本の光導姫と守護者の間では『巫女』で通っているから、そちらでお願いね」
「む、そうか。了解した」
風音が先ほどから気になっていたことを指摘すると、提督はそれを素直に了承した。このような素直なところは提督の美点であろう。
(でも、私彼女のこと苦手なのよね・・・・・・・・)
別に嫌いというわけではないのだが、光導姫としての彼女を知る風音としては、提督のどこか潔白然とした正義観はあまり好きとは言えなかった。
「私の名前は、連華寺風音。漢字はわかる? 連なるの連に難しい方の華、寺はテンプルの寺ね。ここまでが名字。風音は風の音と書いて風音よ」
「漢字はまだあまり理解は出来ていないが、わかった。これからよろしく頼む、風音。私の名前はアイティレ・フィルガラルガだ。アイティレでもフィルガラルガでも好きな方で呼んでくれ」
アイティレはそう言うと、立ち上がり風音に近づいてきた。光導姫の時に会った時も感じた事だが、アイティレは身長が高かった。そのため、風音は見下されるような形になったが、それは身体の特徴的に仕方ない話だ。
「そう、じゃあアイティレで。――改めて日本にようこそアイティレ。扇陣高校の生徒会長としてあなたの留学を私は歓迎します。制服、似合ってるわ」
「心遣いに感謝する風音。そう言ってくれると助かるな。私の学校では、制服というものはなかったから、着こなせているか少々心配していた」
そう言ってアイティレは自分の服装を見直した、ブレザーにスカートという服装は普段自分が着ないので少し気恥ずかしさがあった。
「でも、こんな時期に留学なんて珍しいわね。ああ、あとソレイユ様にしばらく日本にいるって報告した? あなたほどの光導姫がロシアにいないとなれば、ソレイユ様も困るでしょうし」
「そこは心配いらない、ちゃんとご報告したさ。留学については、確かに少し急ぎすぎたかもしれないが、そこはそのようなものだ。人生は急なのだ」
「ふふっ、確かにね。でも意外、あなたそんなことも言えたのね」
風音がどこかおかしそうに笑った。風音の知っている提督は、今まで一度もそんな適当なことは言わなかった。
「なぜ笑う風音。・・・・・・・・・お前が私のことをどう思っているかは知らんが、私とて人間だ。そんな言葉の1つでも言うさ」
「ごめんなさい、別にバカにしてるとかそういうのじゃなくて。ただ、意外に思っただけよ。うん、私あなたのこと苦手だったけど好きになれそう」
「お前、存外はっきり物を言うな・・・・・・・・・・私からすれば素のお前も意外だがな。まあいい、話はこれくらいにしてそろそろ案内を頼む。私はまだこの学校のことをよく知らないのだ」
「ああ、ごめん。つい楽しくって。じゃあ、行きましょうか。まずはあなたの通う教室からね」
風音は事前に教師から渡されていた、アイティレの情報の書かれた紙を自分の生徒会室の机から持ってくる。そこにはアイティレの所属教室などの情報も書かれていた。
「改めて、案内を頼む。風音」
「まかせてアイティレ」
こうして2人は土曜日の人気のない校舎を巡った。




