第1339話 人間の底力(2)
「へえ・・・・・・やっぱり本物なんだ。ずっと隠してたのか。お前はその力を」
変化した器を見た影人は、大した驚きも見せずにそう言葉を漏らした。どうやら、1つ目の条件はクリアしたようだ。
「2つ目の条件は・・・・・・代償を1つ支払う事。いいよ、支払ってやる。さっきも言ったように、俺が生きて家族といられる以外なら何でも。ほら、教えろよ。お前は俺の何が欲しいんだ?」
「・・・・・・!」
影人が器にそう問いかけると、また器が反応するかのように震えた。そして、器は自身から発しているオーラの一端を伸ばし、影人の右手に触れた。
「っ・・・・・・」
その瞬間、影人は理解した。器が代償として何を求めているのかを。何を喰らえば、零無を封じるような強力な力を器が発揮出来るのかを。
「そうか・・・・・・お前はそれが欲しいんだな? それを喰らえば、お前は何でも封じられるんだな?」
「・・・・・・!」
影人の言葉に、また器が反応した。是という事らしい。ならば、それならば、
「・・・・・・いいぜ。持ってけよ。それであいつを封じられるなら安いもんだ。ああ、そうさ。そんなものは・・・・・・」
少しだけ、少しだけ影人は言葉を詰まらせた。思い出されるのは、数日前の紀子との話。紀子が素晴らしいと言っていたそれを、代償として永遠に失う事は、正直に言えば少しだけ悔いがある。
だけれども、家族には変えられない。
「・・・・・・俺はお前にそれを支払う。根こそぎ持っていけよ」
「・・・・・・!」
その影人の言葉に、器は今までで1番大きく震えた。まるで歓喜しているかのように。
器が発しているオーラが伸びて、影人の胸部に触れた。そして、オーラはぬるりと影人の中に入り、
「っ・・・・・・」
影人の中からそれを奪い去った。影人は未だそれを抱いた事はないが、器が確かにそれを奪い、喰らった事を理解した。
影人から代償を受け取った器は、影人の中に侵入させていたオーラと右手に触れさせていたオーラの一端を回収した。
「・・・・・・!」
瞬間、影人から受け取った代償を力とするかのように、器はその全身から発していた闇のオーラを激しく燃え盛らせた。そして、激しく燃え上がったオーラはしばらくすると、器の上の空間に収束し、丸型へと変化した。その瞬間、影人の頭の中にある意志が伝わって来た。
すなわち、その丸型になったオーラに触れろという意志が。影人には、それが器の意志であると直感的に分かった。
「・・・・・・これに触れればいいんだな」
器の意志を理解した影人が、収束している闇のオーラへと右手を伸ばす。
そして、
「・・・・・・」
影人は「力」に触れた。




