表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1337/2051

第1337話 選択、少年は覚悟を決める(5)

(あと少ししたら行かなきゃ・・・・・・3人は俺がいなくても、きっと大丈夫だ。みんな優しいから、最初は悲しんでくれるだろうけど、母さんや父さん、穂乃影ならきっと3人で強く生きていける・・・・・・)

 自分1人欠けたくらいならば大丈夫だ。影人はむくりと体を起こし、未だに寝ている家族をジッと見つめた。目に、心に焼き付けるように。

(・・・・・・よし、もう大丈夫だ。未練は・・・・・・ない)

 そして、影人は布団から出ようとした。だがその時、影人の隣で寝ていた穂乃影がこんな言葉を漏らした。

「だめ・・・・・・行かないで、影兄・・・・・・」

「っ!?」

 穂乃影が漏らしたその言葉。それを聞いた影人がハッとした顔になる。まさか起きているのか。影人が驚きながら穂乃影を見る。だが、穂乃影はまだ眠ったままだった。どうやら、ただの寝言のようだ。影人はホッと安心したように息を吐いた。

(穂乃影・・・・・・)

 寝ている自分の妹。影人は愛しそうに、そっと、そっと右手で穂乃影の頬に触れた。穂乃影を起こさないくらいの力で。穂乃影の頬は当然の事ながら、温かった。

「ん・・・・・・」

 すると、穂乃影は笑みを浮かべた。その笑みは、恐怖と悲しみで疲弊し切った影人の心に暖かく染みた。

(・・・・・・・・・・・・ああ、そうだ)

 穂乃影の頬から手を引いた影人は、唐突に得心した。今までの自分の考えが間違っていた事を。

(家族は誰1人欠けちゃだめなんだ。母さんも、父さんも、穂乃影も、そして俺も。誰かが欠けた穴は一生塞がらない)

 分かっていたはずなのに。日奈美や影仁、穂乃影はもし影人が消えれば、一生の傷を心に負うだろう。その傷は決して癒える事はない。少なくとも、影人ならばそうなるだろう。

(そんな思いは、そんな傷は、俺は家族に負わせたくない。だったら、どうする? 答えは1つだ)

 零無をどうにかする。それだけが、唯一の道だ。その道の果てに、家族みんなが笑える結末がある。そのためには、覚悟を決めるしかない。


 すなわち、零無と戦う覚悟を。


(正直に言えば、零無お姉さんと・・・・・・いや、零無と戦う事は怖い。もし負けたら、俺と、俺の家族は殺されるかもしれない。でも、それでも・・・・・・)

 それしか、それしか道はないのだ。影人はもう気づいてしまった。先ほどまでの自分の考えが、ただの恐怖に負けた弱い自己犠牲の精神でしかなかった事に。未練はないと思ったが、本当は未練しかなかった事に。気づいてしまったのだ。

(・・・・・・やるしかない。俺はみんなと・・・・・・家族といるために零無と、あいつと戦う。そして、勝つ。もう大丈夫だ。穂乃影の笑顔が教えてくれたから。穂乃影の笑顔に勇気をもらったから。俺は一生、母さんと父さんの息子であるために、穂乃影の兄貴でいるために、覚悟を決める)

 先ほどまでの恐怖と悲しみが、嘘のようにスゥと鎮まっていく。むろん、それらが完全に消えたわけではない。だが充分に、いや十二分にそれらはコントロールできるレベルだ。

(幸いな事にアテはある。零無をどうにか出来るアテは。今の俺なら・・・・・・()()()()()はずだ)

 代償も、命でない限りならば何だって支払ってみせる。影人は布団から出て立ち上がると、最後に自分の家族を見つめた。

 そして、

「・・・・・・行って来るよ。必ず・・・・戻って来るから」

 影人は小さな、小さな声でそう呟くと、襖を開け隣の部屋に出て、その部屋を出て、旅館を出た。

 零無と――戦うために。


 ――この日、影人は覚悟を決めた。そして、この日、帰城影人の精神は完成した。鋼をも超える精神を、影人は獲得した。

 生きるために、目的のために、必要とあるならば、心を道具のように使う精神を。恐怖を克服する精神を。何者にも動じない精神を。どんな状況でも絶対に諦めない精神を。

 本当ならば、人間が一生を懸けても獲得できるかも分からない精神。それを、影人はたった10歳で獲得してしまった。

 それは仕方がない事といえ、とても――とても悲しい事であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ