第1334話 選択、少年は覚悟を決める(2)
「は・・・・・・・・・・・・?」
あまりに自然と紡がれたその言葉に、影人は思わず零無の方を振り返り、呆然と立ち尽くした。何だ。いったい何を言っているのだ。
「よし、そうしよう。何、貴重ではあるが、残っている吾の力を使えば、人間数人くらい殺せるだろう。ふむ、そうとなれば善は急げというやつだ。影人、お前の家族は昨日訪れた部屋にいるかな? 少し待っていてくれ。すぐに奴らを殺して――」
「待って・・・・・・待ってよ・・・・・・待てよ!」
笑顔を浮かべ狂気の言葉を述べる零無に、影人はそう言葉を割り込ませた。
「ん? どうしたんだい影人?」
「そんな事ダメに決まってるだろ!? 絶対に、絶対に! 俺の家族を殺すなんて! ねえ、やめてよ零無お姉さん! おかしいよ! 本当におかしいよ!」
必死になりながら影人は自身の心のままの言葉を吐露した。
「吾だって、出来れば貴重な残りの力を使って人間風情を殺したくはないさ。もったいないからね。だがしかし、お前は奴らがいる限り、奴らの元に帰るのだろう? ならば、殺すしかないじゃないか」
「っ、だから・・・・・・!」
しかし、今の零無にそんな言葉が通じるはずがない。軽く首を傾げる零無に、影人は泣きそうな顔を浮かべた。
「はあー、お前は強欲だな影人。吾と2人でいる事は嫌だといい、家族を殺すのも嫌だと言う。分かるかい影人。お前は、お前のような弱く儚い存在は――」
零無はそこでスゥと目を細め、自身の気配を解放すると、冷たい声でこう言った。
「選べないんだよ。どちらもは。お前に残された道は2つだ。素直に吾と共に来るか。家族を殺されて、仕方なく吾の元に来るか。さあ選べよ影人。いい加減にな。でなければ、少し苛立って来たぜ」
「っ!?」
瞬間、影人に尋常ならざる恐怖が襲い掛かった。その恐怖は零無と初めて会ったあの時と同じ、耐え難い恐怖であった。
「ひっ・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・!」
影人の体が恐怖から震える。呼吸が乱れる。全身に鳥肌が立ち、冷や汗が止まらない。涙が生じ、地面へと落ちて行く。影人は地面に尻餅をついた。
「さあ、選べよ影人。どちらか、片方の選択肢を。最後に5秒だけ時間をやる。その間に決めろ」
零無は恐怖に慄く影人を見つめると、カウントを始めた。
「1つ」
「う、ううっ・・・・・・!」
影人は発狂してしまいそうになるほどの恐怖の中で、極限の選択を迫られた。
「2つ」
カウントが更に進む。だが、こんな状況下でまともな判断がただの10歳の少年に、いや人間に出来るはずがなかった。
「3つ」
「うあ・・・・・・おえっ!」
あまりの恐怖から影人は嘔吐いた。だが、カウントは無常にもただ進む。
「4つ」
遂に残すカウントはあと1つ。影人はここで無理にでも選択しなければならなかった。
(お、俺は・・・・・・本当は、母さんや父さん、穂乃影たちと別れたくない。で、でも俺が行かなきゃ、俺の大切な家族たちは、零無お姉さんに殺される。ううっ、なら・・・・・・)
極限の状況下において引き絞られた意識の中で影人はそう考える。
そして、
「・・・・・・5――」
「わ、分かったよ・・・・・・! 一緒に・・・・・・零無お姉さんと一緒に行くよ!」
影人は声を振り絞り、零無に自身の選択の答えを告げた。




