第1330話 反転(2)
「あはは、まあそうね。影人の言うように、そんなのは影仁らしくないわ」
「うん。お父さんはそういう感じじゃない」
「日奈美さんと穂乃影まで!? ああもう、いったい何だってんだよ・・・・・・」
自分以外の家族全員からそう言われた影仁は、ガクリと肩を落とした。どうやら、本気で落ち込んでしまったらしい。そんな影仁を見て、影人はまた小さな笑みを浮かべた。どうやら、影仁はこれが自分たちなりの愛情表現だとは分かっていないようだ。
(きっと、1番俺たち家族に必要な人は、家族の中心は、何だかんだ言って父さんだ。父さんがいるから、母さんも元気に頑張れる。俺と穂乃影も、父さんの明るさと優しさに、知らない内に助けられてる)
影仁は不思議な人間だ。緩くて、少しドジで、締まらなくて、欠点を挙げれば限りがないような、そんな人間だ。だが、その明るさからか、もしくは雰囲気からか、影仁は基本的に誰からも好かれる。もちろん、家族からも。
(だけど、父さんはその事には気づいてないんだよな。勘だけは結構いいはずなのに。まあ、わざわざそんな事を言うつもりもないけど)
影人は未だに落ち込んでいる影仁を見てそう思っていると、影仁が影人の視線に気がついたのか、顔を影人の方に向けてきた。
「何だよ影人。まだ俺のメンタルに来る言葉を浴びせる気か? これ以上はやめろよ。マジで泣くから」
「別にそんなんじゃないよ。ていうか、大の大人が情けないな・・・・・・なあ、父さん」
「ん?」
「・・・・・・また家族全員でどこかに行こうな」
「・・・・・・ああ。もちろんだ」
影人の言葉に、影仁は明るい笑みを浮かべた。そして、右手を影人の頭に乗せて、優しく影人の頭を撫でた。影人は少し恥ずかしかったが、手を払うような真似はしなかった。
「影仁、影人。こっち来て。写真撮るわよ」
少し離れた位置に移動していた日奈美が、2人にそう言葉を掛けてきた。日奈美の隣には穂乃影もいた。どうやら、家族写真を撮ろうという事らしい。
「分かった! ほら、行こうぜ影人」
「うん」
影仁と影人は日奈美と穂乃影の元に向かった。すると、日奈美はデジタルカメラを観光客の1人に手渡し、自分たちを撮ってくれるようにお願いしていた。日奈美にお願いされた青年は、4人にこう言った。
「じゃ、撮りますよ。はい、チーズ!」
カシャリと音が響き、カメラのシャッターが切られる。そこには、日奈美、穂乃影、影人、影仁が笑顔と共に写っていた。
――それが、4人で写った最後の写真になった。
「いやー、良かったわ。楽しかったわ」
「ね。後は旅館に戻って、また美味い飯と酒を呑んで、それで温泉入ってぐっすりするだけか。いやー、明日にはもう東京に帰るって嫌だなー。名残惜しい」
「本当にね。この暑さだけは嫌だけど、もうちょっと居たかったわ」
午後4時過ぎ。清水寺とその付近を充分に観光した帰城家。旅館近くに戻って来た日奈美と影仁は、そんな言葉を交わしていた。
「でも、仕事は月曜からだから、明日には絶対帰らなきゃならないし。仕方ないわ。その代わり、また旅行に行きましょうね影人、穂乃影」
日奈美は自分の横にいた2人にそう言った。
「ん、まあ気が向いたらね」
「うん。楽しみにしてるね」
日奈美にそう言われた影人と穂乃影は、それぞれそんな反応を示した。
「あ、母さん。俺、またちょっと神社行って来る。ご飯前には絶対戻るから」
また零無に会いたくなった影人は、続けて日奈美にそう言った。




