第133話 留学生 アイティレ・フィルガラルガ(1)
「――では、今日はここまでにしましょうか」
「「ありがとうございました!」」
風音との週に1回の模擬戦を終えた陽華と明夜は、そう言って頭を下げた。
風音は「いや、頭は下げなくていいから・・・・・!」とパタパタと手を振った。
そして2人が顔を上げると、風音は変身を解除してメタモルボックスに触れる。「プラクティスルーム、変容停止」と呟くと、今いた真白な部屋はどこへやら。景色が体育館の内部へと変わった。むろん、この体育館は風洛高校の体育館ではなく、扇陣高校の第3体育館内部である。
「うう、今日もボコボコにされたわ・・・・・・・」
「連華寺さん、強すぎですよ!」
「あはは、そこは仕方ないかな」
変身を解除して、軽い愚痴をこぼす2人に風音は笑ってみせた。3回目の模擬戦ということもあって、初めて会った時より距離感はかなり縮まっていた。だが、それは陽華と明夜の人柄によるところが大きい。風洛の名物コンビは人に好かれやすいのだ。
「うん。でも2人とも少しずつだけど動きがよくなってると思うよ」
「本当ですか? 全くそんな自覚はないんですけど・・・・・・・」
「右に同じ。――ねえ、陽華。私無性に甘い物食べたいから『しえら』に行かない? どうせこの後ひまでしょ?」
明夜が死んだような目で親友に語りかけた。模擬戦で汗をかいた事からか、明夜の体は甘い物を欲していた。そして、明夜は前に陽華が食べてとても美味しかったという、喫茶店『しえら』のフレンチトーストを食べたいと思っていた。
「いいねいいね! 私もお腹すいたし行こ行こ! あ、よかったら連華寺さんも一緒に行きませんか? ここからちょっと遠いですけど、飲み物も食べ物もとってもおいしいんです!」
陽華が風音をお茶に誘う。この機にというわけではないが、陽華は出来るならもっと風音と仲良くなりたかった。
「せっかくのお誘いはとっても嬉しいんだけど・・・・・・ごめんなさい。今日はこのあと予定があって」
風音は両手を合わせて陽華の誘いを断った。陽華の申し出は、魅力的で風音も出来ることなら行きたかったのだが、今日は予定があった。
「そうですか。残念ですけど、仕方ないですね。じゃあ、私たちはこれで失礼します。今日もありがとうございました!」
「ありがとうございました。連華寺さん」
風音の予定があるという言葉を聞いて、陽華と風音は再びお礼の言葉を告げて、体育館を出た。2人はここに来るのに電車で来ているので、帰り道はもう覚えていた。
「ええ、お疲れさま2人とも。また来週」
風音は元気にこちらに手を振る2人に笑顔を向けてそう言った。
「・・・・・・・・・さて私も生徒会室に行かないと」
今日、風音はある留学生に扇陣高校を案内することになっていた。なぜ風音が、留学生に扇陣高校の案内をしなくてはならないのかと言うと、風音とその留学生の少女は顔なじみだからだ。そして彼女は生徒会室で風音を待っている。
「・・・・・・ちょっと気は進まないけど、やらなきゃね」
風音はため息をつくと、体育館を出た。




