表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1328/2051

第1328話 魅入られた者(4)

「・・・・・・確かに、見たところはただの器っぽいですね」

「ははっ、そうだろう? 一応、由緒がある物らしくて、ずっとここに安置されているんだ。私が生まれる前からね。亡くなった親父にいつ頃からあるのか聞いた事があるんだが、親父も分からないと言っていたよ。とにかく、とても古くからあるんだ」

 友三郎は影人にそう説明した。一方の影人は、器から不思議な力を感じ取れないかどうか、一生懸命に見つめていた。

(・・・・・・ダメだ。何にも分からない)

 だが、影人には何も感じる事は出来なかった。影人がそう思った瞬間、


「――へえ、あれが件の器か。なるほど、確かにそれなりの力は秘めている感じだな」


 突如として、影人の耳元でそんな声がした。

「え!?」

 驚いた影人が自分の横に振り返ると、そこには零無がいた。全く気が付かなかった。一体いつからいたのか。影人が呆然としていると、友三郎が不思議そうな顔を浮かべこう言ってきた。

「? どうしたんだい、急に。何かあったかい?」

「あ、い、いや別に! ちょっと虫が止まっちゃって。でも、もう大丈夫です。どっか行ったみたいなんで。あの、見せていただいてありがとうございました。じゃあ、すいません。俺はこれで!」

 友三郎にそう誤魔化した影人は、逃げるように友三郎の元から去った。

「あ、ああ・・・・・・気をつけてね」

 急に走り去って行った影人に、未だに不思議そうな顔になりながらも、友三郎はそう言って影人を見送った。

「しかし、気のせいか? さっき、一瞬何か・・・・・・何かとても・・・・・・」

 1人になった友三郎は本殿の扉を閉じると、その顔を少し険しいものにさせ、

()()()()がしたのだが・・・・・・」

 そう呟いた。













「零無お姉さん! 急に現れないでよ! ビックリしたじゃないか!」

 神社を出た影人は、周囲に人の姿がない事を確認すると、自分に着いてきていた零無に向かってそう言葉を放った。

「ははっ、悪い悪い。ついね。最初は少し驚かそうと思って気配を絶っていたんだが、お前があの男とどこかに向かう様子だったんで、こっそり後を着けてたんだ。許しておくれよ」

 影人にそう言われた零無は、言葉とは裏腹にあっけらかんとした様子だった。そんな零無に対し、影人は軽くため息を吐く。

「はあー、全く・・・・・・お姉さん、本当に幽霊なんだから・・・・」

 先ほど零無が現れたタイミングを、幽霊らしいという意味でそう言って、続けてこう言った。

「それで、さっきお姉さんが言ってたみたいに、あの器はやっぱり本物だったの?」

「ああ、間違いはないよ。あれは相当に強力な呪具だ。ただ、普段はその力を露わにしてはいないようだがね。恐らく、昨日お前から聞いたように条件発動型で、その条件を満たせば力が解放されるのだろう」

「条件・・・・・・女将さんが言ってた、何者にも負けず、動じない、鋼をも超えた覚悟を持つ事ってやつかな」

「ああ。その心持ちで、あの器の前に行けばあの器は力を発揮し、2つ目の条件、代償を1つ支払うというプロセスに進むって感じかな」

 零無は影人の言葉に頷くと、続けて少し不満げな顔を浮かべた。

「影人、お前があの神社に来たのは器を見るためかい? だとしたら、少し心外だな。お前はてっきり吾に会いに来てくれたと思っていたのに」

「い、いや俺は零無お姉さんに会いに行ったんだよ? これは嘘じゃない。でも、たまたま神主さんと会ってああいう流れになっただけで・・・・・・」

「・・・・・・本当に?」

「うん、本当だよ!」

 口を尖らせそう確認してきた零無。そんな零無に、影人は力強くそう言った。

「ふふふ・・・・・・そうか、そうか。いやなに、初めから分かっていたとも。ちょっと言ってみただけさ。やはり、吾に会いにきたか。ふふふ」

「っ?」

 影人の言葉を聞いた零無は途端に、にへらぁとした顔になり嬉しそうに笑った。急に機嫌が良くなった零無に対し、影人は不思議そうな顔を浮かべた。

「ああ、影人。お前はいい子だな。可愛いな。それでこそ、吾の友だ」

「れ、零無お姉さん? 本当、いきなりどうしちゃったのさ・・・・・・?」

 影人の周囲を嬉しそうにクルクルと回る零無。その様子に影人は戸惑った。

「別に何も。何もないさ。ただ、存外にこの世界が美しいという事に気がついただけだよ。ふふっ、ふふふ!」

「・・・・・・ははっ。そうだね、きっとそうだね」

 零無はとびきりの笑顔を浮かべた。そして、零無に釣られるように、影人も笑みを浮かべた。

 それから、影人が宿に戻るまで、2人はまた他愛のない話をした。零無は終始機嫌が良く、影人も零無と話す時間がとても楽しかった。


 ――出会ってまだ1日ばかりだが、2人は確かな絆を育んでいた。それは、友との関係に時間などは必要はない、という一種の素晴らしい事実を示していた。影人と零無は確かに、確かに友であった。


 ――そう。この時までは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ