第1316話 人間の最も強い力(1)
「こら影人! ちゃんと夕食までには戻って来るって約束したでしょ! もう7時過ぎてるわよ!」
影人があの神社で人ならざる友人を得て、影仁と共に宿泊先の旅館の自分たちの部屋に戻ると、日奈美が影人に怒った様子でそう言ってきた。日奈美にそう言われた影人は、少しビクつくと申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「ご、ごめん母さん・・・・・・約束を破るつもりはなかったんだけど、つい時間を忘れてた」
日奈美に怒られた影人は素直に謝罪した。日奈美は怒る時ははっきりと怒る。しかも、どう見ても相手が、この場合は影人が悪い時だけ。ゆえに、自分が悪いと理解していた影人は、すぐに謝罪の言葉を述べたのだった。
「・・・・・・ん。悪いと思っているのなら、これ以上は言わないわ。旅行先ではしゃぐ気持ちは分かるけど、私たちが心配するって事を忘れないでね」
「うん、本当ごめん・・・・・・」
「分かったならオーケーよ。さ、手を洗って来なさい影人。もう旅館の人たちがご飯運んでくれてるから」
日奈美は笑みを浮かべると影人にそう言った。影人は2階の洗面所で手を洗うと、穂乃影の横に座った。影仁は日奈美の隣だ。
「影兄、神社に何か面白い物あった?」
「え? い、いや別に何にも。ただの普通の神社だった」
穂乃影からそう聞かれた影人は、誤魔化すような笑みを浮かべ答えを返した。まさか、幽霊と出会って友達になったなどとは言えない。
「さあ、食べましょ! 見てよこの豪勢な夕食! 絶対に美味しいわ!」
日奈美が自分たちの前に並んでいる料理の数々を見つめる。料理は各自に同じメニューが添えられ、お盆に乗っており、何と言ってもその目玉は鉄板で焼かれているお肉だろう。その他には季節の天ぷらや、色々な魚のお刺身があり、茶碗蒸しに炊き込みご飯、野菜のお浸しや小鉢などもある。普通の食事では中々見ない豪勢さに、日奈美は興奮していた。
「影人、穂乃影。好き嫌いは別として、どうしても食べられない物があったら言いなさい。私と影仁が食べてあげるから」
小鉢などには、湯葉などまだ子供の2人が素直に美味しいと感じにくい具材もあった。大人と子供の味覚は違う。その事を忘れずに、日奈美は2人にそう言うのを忘れなかった。日奈美の言葉に、影人と穂乃影は首を縦に振る。
「よし、じゃあ・・・・・・いただきます」
「「「いただきます」」」
両手を合わせそう言った日奈美に続き、影仁、影人、穂乃影の3人も手を合わせ、食事に対する感謝の言葉を述べる。帰城家はその豪勢な夕食に舌鼓を打った。




