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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1313/2051

第1313話 幽霊との問答(2)

「なるほど、影人か。じゃあ、影人。こっちにおいで。少し話をしようじゃないか」

「う、うん・・・・・・」

 女が手招きをして影人を呼ぶ。女に呼ばれた影人は戸惑いを覚えながらも、女が座っている大きな石の方へと近づいて行った。

「あの・・・・・・お姉さんは、いったい・・・・・・何者なの?」

 大石に近づいた影人は女にそう聞いた。既に女に恐怖を抱いていなかったがゆえに、影人はそんな質問をする事が出来た。

「ふむ、吾に何者であるか尋ねるか。ふふっ、人間にそう聞かれたのは初めてだな。いいだろう、特別に吾が何者なのかお前に教えてやろう」

 女は影人の質問に軽く笑みを浮かべると、こう言葉を続けた。

「吾はぜろなる始原にして、たる終わりの権化。唯一絶対なるうつろの存在だよ」

「・・・・・・?」

 女が影人に自身が何者であるのかを告げる。だが、女の答えを聞いた影人は、意味が分からないといった感じの顔を浮かべた。

「ごめんなさい、俺にはよく分からないや・・・・・・お姉さん、名前はないの?」

「名前? 名前か・・・・・・そうだな。追放される前の吾には『空』という名前があったが、今は奴ら真界の神々の内の誰かが『空』に就いているだろうし・・・・・・言われてみれば、今の吾に名前はないな」

 影人の問いかけに、結局女はそう答えた。

「だが、吾に名前など不要だぜ少年。吾は全ての存在の頂点に立つ存在。何者も吾を縛る事は出来ない。名前でさえもな。吾は全てから自由なのさ」

「そう・・・・なの・・・・・・?」

「ああ、そうなのさ」

 不思議そうな顔を浮かべる影人に女は頷いた。

「ふーん・・・・・・じゃあ、お姉さんはお姉さんって呼ぶしかないんだね」

「まあ、そうだな。今の吾に固有の名詞はないから。いいだろう、そう呼ばれてやるさ」

 女が影人に許可を与える。その言葉を受けた影人は女にこう言った。

「じゃあ、お姉さん。お姉さんはここで何してるの? 休憩?」

 たった1人で、夕暮れの神社で靴も履かずにいる女。そんな女に疑問を抱かない影人ではなかった。影人の言葉を聞いた女は「ん、そうだな。休憩みたいなものだよ」と言って頷いた。

「そうなんだ。じゃあ、靴は無くしちゃったの? 靴がないとお家には帰れないでしょ。早く何とかした方がいいよ」

「靴? ははっ、吾にそんな物は不要だよ。それに、吾には帰る家などない。いや、まあ家と称す事の出来る場所はあったが、吾はそこを追放されたからな」

「え・・・・・・? お姉さん、家から追い出されちゃったの・・・・・・? それは・・・・・・悲しかったね。ごめんなさい、そんな事を聞いて・・・・・・」

 女のその答えを聞いた影人は、申し訳なさそうな顔を浮かべた。影人のその顔と謝罪の言葉に、女は不思議そうな顔になる。

「んん? なぜそんな顔をして吾に謝る? 確かに、吾を追放した奴らに思うところはあるが、悲しいとは思わないぜ、吾は」

「そうなの・・・・・・? 俺がお姉さんの立場だったら、凄く悲しいけどな。俺はたまに家族とケンカして、家族が嫌いになる事もあるけど・・・・・・それでも、結局は家族が好きだから」

 影人は素直な自分の気持ちを女に吐露した。日奈美や影仁、それに穂乃影。影人は普段は恥ずかしくて言えないが、自分の家族が大好きだ。だから、もし自分がそんな家族から追い出されたりしたら、嫌われたりしたら、影人は絶望して死ぬかもしれない。

「家族、ね。少年、少し難しいかもしれないが、吾に家族はいないし、いらないんだよ。家族とは、弱者が群れをなし、自身の生きた証を残す、残そうとするものだ。吾は最初から完成された個体。吾以外に吾はいない。だから、悲しいとかそんな感情は感じた事はないよ」

「? ごめん、やっぱりお姉さんの言う事は難し過ぎてよく分からないや。・・・・・・でも、お姉さんに家族がいないのは、やっぱり寂しいと思う。だから・・・・・・」

 影人はそう言うと、スッと女に右手を向けた。そして、不思議そうな顔を浮かべている女に、こう言葉を続けた。

「俺と友達にならない? 家族の代わりにはなれないけど、それでも友達がいれば少しは寂しくないって思えるから。知ってるお姉さん? 友達って暖かいんだよ。楽しい時に側にいればもっと楽しいし、孤独な時に居てくれれば、気分も晴れてくる。心の中で繋がってる気持ちになれるんだ」

 影人は小さな笑みを浮かべた。少しだけ恥ずかしそうに。それは、最近思っている事を素直に言葉にするのが、何故だか恥ずかしくなってきたからだった。

「もちろん、迷惑なら断ってくれても全然いい。俺の提案が厚かましくて、不快だったのなら謝るよ。でも、もしそうじゃなかったら・・・・・・どうかな?」

 チラリと女の神秘的な透明の瞳を、自身の黒い瞳で見つめながら、影人はそう聞いた。影人の言葉を受けた女は、なぜかしばらく呆気に取られたような顔を浮かべ、

「ふ、ははっ・・・・・・はははははははははははははははははははははっ! 人間が吾と友に、並び立つ存在になりたいというのか! おいおい、今まで吾にそんな事を言う奴はいなかったぞ!? 真界の神々ですらな! それを、人間が・・・・・・くくっ、はははははは! お前は面白い事を言うな、少年!」

 突然、大笑いした。まるで、おかしくてたまらないといった感じで。急に笑い始めた女に影人は戸惑った。

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