第1310話 あの日の出会い(3)
「暑っ・・・・・・この暑さだけは慣れそうにないわね・・・・・・」
「調べてみたら、今日の京都の温度38度らしいよ。本当、バカみたいに暑い・・・・・・」
旅館の外に出た4人を、また京都の暑さが襲った。日奈美と影仁は空に燦然と輝く太陽に目を細めた。
「2人とも、水分はこまめに摂りなさいよ。それで不調を感じたらすぐに言うのよ」
「分かった」
「うん」
「よろしい。じゃあ、まずはお蕎麦屋さんに行きましょ。おいで、穂乃影」
日奈美が穂乃影に右手を差し出す。穂乃影は日奈美の手を小さな左手で握った。そして、スマホの地図を確認しながら歩き始めた。影仁と影人は、日奈美の後に続いた。
「ほれ、お前は父さんとだ」
影仁が影人に左手を向けて来た。どうやら、前の日奈美と穂乃影同様に握れという事らしい。
「嫌だよ。勘弁してくれ。何で10歳にもなって父さんと手なんか繋がなくちゃならないんだ。恥ずかしい」
だが、影人はそっけない態度で影仁にそう言って、影仁の手を無視した。息子にそう言われてしまった影仁はショックを受けた。
「お、おい嘘だろ。数年前までは笑顔で俺の手握ってくれたのに・・・・子供の成長早すぎるだろ・・・・・・」
「別に普通だろ。父さんが俺と同じ年齢の時、親と手を握りたかったか?」
「いや・・・・・・よく考えれば、俺もあんまり握りたくなかったな。どっちかって言うと、俺は女子の手を握りたかった。あ、もしかしてお前もそう?」
ニヤニヤとした顔を浮かべながら、影仁がそんな事を聞いて来た。その笑みを少し不愉快に感じた影人は、どこまでも平坦な声でこう言葉を述べる。
「いや全く。俺は今のところ、恋愛にも女子にも興味はないから。クラスの男子たちは、最近そっち方面に興味持ち始めてるけど・・・・・・俺は友達と遊んだり、1人でゲームしたり漫画読んだりとかしてる方がよっぽど好きだ」
「冷めてんなーお前は。もったいない。せっかく日奈美さんに似た綺麗な顔なのに。ま、いつか興味が出てくる事もあるだろ。その時は、日奈美さんに感謝するだろうぜ、お前」
「何の話だよ・・・・・・」
急にそんな事を言って来た影仁に、影人は少し疲れたように言葉を述べる。別に、影人は自分の外見を気にした事などないし、興味もない。というか、自分の顔が綺麗と認識した時が来たら、それは一種のナルシストになったという事ではないか。それは格好よくない。影人は、自分の顔がどうこうの話は忘れようと思った。
まあ、数年後の影人はナルシストとは比べ物にならない一種の化け物みたいな奴(色々な意味で)になるのだが、それをこの時の影人は全く知らない。
そして、そんな話をしている間に4人は最初の目的地である蕎麦屋に辿り着いた。蕎麦屋は少し混んでいたが、10分ほど待っていると席が空いた。日奈美と影人は天ざる蕎麦を、影仁は鴨そばを、穂乃影はざる蕎麦と小さな炊き込みご飯を注文した。
「お蕎麦、美味しかったわね」
「うん、美味しかった」
「いやー、マジで絶品だったぜ。あの鴨そば。また食いてえな」
「天ざる蕎麦も美味かったよ。ご馳走様、父さん」
蕎麦屋を出た日奈美、穂乃影、影仁、影人はそれぞれそんな感想を漏らした。ちなみに、いま影人が礼を言ったように、蕎麦屋の代金は影仁が支払った。
「あいよ。よし、じゃあここから本格的な観光と行くか! 日奈美さん、次はどこ行く?」
「そうね。清水寺は明日行く予定だし、今日は東寺の五重塔に行きましょうか。影人、穂乃影。あんた達からすれば、寺なんか見ても全く面白くないでしょうけど、ちょっとだけ付き合ってちょうだいね。その代わり、近くにイ◯ンあるみたいだし、帰りそこ連れて行ってあげるから」
「いいよ」
「うん、分かった」
日奈美からそう言われた影人と穂乃影は、日奈美の言葉に素直に頷いた。
「ありがとう。じゃ、またタクシー拾って移動しましょ」
日奈美は小さく笑ってそう言うと、タクシーを探すべく歩き始めた。影仁、影人、穂乃影も日奈美の後に続いた。影人ははぐれないように穂乃影の手を握って。
こうして、帰城家の本格的な京都旅行が始まった。




