第1301話 封じていた過去(3)
「っ・・・・・・」
その声に聞き覚えがあった影人は、その声が聞こえて来た方に顔を向けた。声がして来た方は、鳥居の方だった。すると、そこには1人の女性がいた。桜色の長い髪が特徴の美しい女性が。
「ソレイユ・・・・・・」
影人がポツリとその女性の名前を呟く。そこにいたのは、光の女神ソレイユ。影人にスプリガンとしての力を与えた者であり、また影人が消える前に最後に会った人物だった。
「・・・・・・」
影人が消える前と同じ、桜色のワンピースを着ていたソレイユは、影人を睨みつけるかのように見つめると、スタスタとこちらに向かって歩いて来た。
「・・・・・・」
影人もそんなソレイユを前髪の下の両目で見つめながら、ソレイユの方に向かって歩いて行く。ある覚悟を固めながら。
「「・・・・・・」」
そして、両者は向かい合うように立ち止まる。両者の対面距離は約1メートルほどだった。そんな両者の様子を、レイゼロール、シェルディア、シトュウは静かに見守った。
「・・・・・・私、言いましたよね。さよならは言わないって」
「・・・・・・ああ、言ったな。それに対して、俺はお前にさよならの言葉を言った」
どこか震えたような声で、ソレイユはそんな言葉を述べた。その言葉に対し、影人は静かにそう言葉を返す。
「・・・・・・私はさっきのさっきまで、あなたの事を忘れてた。でも、さっき突然あなたの事を思い出した。私は悲しくて、悔しくて、怒ったような気持ちになって・・・・・・気持ちがぐちゃぐちゃになった」
「・・・・・・そうか」
影人はただ頷く。ソレイユは唯一、影人が消えた理由を知っている人物だ。自分が消える前に、泣き叫んでいたソレイユの事を思い出すと、影人は何も言えなかった。
「・・・・・・それで、突然あなたの事を思い出した私は、おかしいって思ってあなたの気配を探ってみた。私はあなたの気配ならすぐに分かるから」
「・・・・・・だろうな」
ソレイユは影人に自身の神力を分け与え、スプリガンにした張本人だ。2人の間には繋がりができ、念話をする事も可能だった。そんなソレイユが、影人の気配を知らないはずがない。
「・・・・・・調べてみたら、ここからあなたの気配を感じた。でも、あなたはあの時に消えたはずだから、私信じられなくて・・・・・・でも、もしかしたらって思って、ここに来てみたら・・・・・・あなたが、あなたがいた」
「・・・・・・ああ」
「っ・・・・・・! ああですって・・・・・・? 私が、私がどんな気持ちで・・・・・・!」
影人がそう相槌を打つと、ソレイユは怒ったような顔を浮かべた。そして、ギュウと両手の拳を握り締める。
「影人ッ! 歯ァ食い縛りなさいッ!」
そして、ソレイユは感情を爆発させた。右手の拳を大きく引き力を込める。影人はただ直立不動で立つだけで、回避の動作は取らなかった。これは避けてはいけないものだからだ。
「はあッ!」
ソレイユは振りかぶった右の鉄拳を、影人の左頬へと放った。思い切り。力の限り。
「っ・・・・・・」
ソレイユの鉄拳を影人は甘んじて受けた。途端、影人の左頬に痛みと衝撃が訪れる。影人は踏ん張って、ソレイユの拳の痛みをしかと味わった。
「・・・・・・効いたぜ。お前の拳」
ソレイユの拳を受けた影人は、ただ一言そう言った。その言葉を聞いたソレイユは、遂にその目から涙を溢れさせこう叫んだ。
「当たり前よッ! バカ! このバカッ! 本当に、本当に・・・・・・! また・・・・・・会えてよかった・・・・・・!」
「・・・・・・本当、悪かった。俺も、またお前と会えてよかったよ」
ソレイユは影人の影人の胸にしがみついた。そんなソレイユを見つめながら、影人はそう言った。
「ううっ・・・・・・! ううっ・・・・・・!」
「・・・・・・」
それからソレイユが泣き止む間、影人はただ無言でソレイユに自分の胸を貸した。




