第13話 守護者の実力(1)
『彼があなた以外の保証ですよ』
ソレイユの声を聞きながら、影人は未だ驚きから立ち直れずにいた。だが、それもそうだろう。なぜなら守護者が香乃宮光司だとは影人は露程にも知らなかったのだから。
「香乃宮、あいつが・・・・・・」
とりあえず、茂みの中から事の成り行きを見守ることに影人は決めた。
見ていると、陽華と明夜も自分たちを助けた守護者が自分たちの高校の有名人、香乃宮光司だと気がついたようだ。
「あの・・・・もしかしなくても、香乃宮くんですか?」
明夜が遠慮半分、好奇心半分で光司に話しかけた。すると、光司は先ほどの食堂で話した時と同じように目を見開いた。
「驚いた。僕を知っているということはもしかして君たちは――」
「はい! 風洛高校2年の月下明夜です!」
「あ、同じく2年の朝宮陽華です」
明夜が普段とは打って変わり、そのクールな顔を表情豊かに変え光司に自己紹介をする。そして明夜に続き陽華も同じように自己紹介をする。
「そうか! 同じ学年なのか、ははっ、今日はよく驚く日だな」
光司はイケメン特有の朗らかな笑顔でそう言うと、闇奴化していた人間を近くのベンチに寝かせた。気を失っているだけなので、すぐに目を覚ますだろう。
光司は守護者としての変身を解いた。すると光司の胸元にペンダントが現れた。どうやらあれが光司の変身アイテムのようだ。
制服姿に戻った光司は恭しく陽華と明夜に一礼した。
「改めまして、守護者の香乃宮光司です。守護者になってからまだ1年ですが、お二人のことを必ず守ると誓います」
「うへ・・・・・あいつよくあんな恥ずかしいセリフが言えるな」
光司の歯の浮くようなセリフに影人は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。自分はきっと死ぬまであんなセリフを言えないし、言わないだろう。
『彼は優秀な守護者だとラルバから聞いています。何でも、守護者ランキングでも10位に入っているとか』
「守護者ランキングって何だよ・・・・・」
守護者ランキングなるものが何なのか影人には分からないが、どうやら光司は優秀らしい。通常でも完璧超人に近いのに、守護者としても優秀とはさすがは香乃宮光司といったところか。
その間も光司と二人のやり取りを茂みから隠れて見ていると、陽華が何かを思い至ったように光司に話しかけた。
「そうだ! 香乃宮くん、スプリガンって人を知らない?」
「スプリガン?」
「うん。前に私たちを、私を助けてくれた人なんだけど・・・・・もしかして、香乃宮くんと同じ守護者なのかなって今思って」
陽華は一縷の希望をもって、光司に質問した。陽華は初めて光司という守護者と会ったが、光司を見ていると、スプリガンも守護者だったのではないかという考えが浮かんできたのだ。
「さあ、僕は知らないな。ただ、守護者にとって守護者名は名前と同じだから、ラルバ様に聞けばわかると思うよ。ちなみに、僕の守護者としての守護者名は『騎士』だ。まあ、守護者名はラルバ様が決めるんだけどね」
「あの、香乃宮くん、ラルバ様って?」
陽華が不思議そうな顔で光司に問いかける。隣の明夜もそんな名前は初めて聞いたという顔だ。
「あれ、知らないのかい? そうだな、君たちはソレイユ様から光導姫としての力を与えられただろう? それと同じで、僕たち守護者はラルバ様という男神から守護者としての力を与えられるのさ」
光司が陽華と明夜にラルバなる神について説明する。それを聞いた陽華はつい光司の手を握って顔を近づけた。
「香乃宮くん! そのラルバ様に会えないかな!?」
「え、ええと・・・・朝宮さん、その、淑女が年頃の男にむやみに顔を近づけるものでは・・・・・」
イケメンといえど、いきなり女子に顔を近づけられるのは、流石に恥ずかしいようだ。光司は丁寧すぎる言葉で陽華をたしなめた。
「ちょっと陽華! 顔近づけすぎよ! あと手!」
「あ、ごめん! つい・・・・」
陽華も急に慌てて手を離し、光司から距離をとった。どうやら無意識だったようである。光司も気を取り直したようで、陽華のお願いに答えを返した。
「いや、大丈夫だよ。それよりラルバ様に会いたいか・・・・・一応、僕からそのスプリガンって人のことを聞くこともできるけど、それじゃあだめかい?」
「もちろんそれだけでもとってもありがたいんだけど、その、できれば直接会いたいかなって・・・・・」
陽華は光司に申し訳ない気持ちを抱きながらも、強い意志を宿したい目で光司を見つめた。
「そうか・・・・・・わかった、ラルバ様に掛け合っておくよ」
光司は真摯な態度で陽華の思いに答えた。光司のその返事を聞いた陽華は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「本当!? ありがとう! 香乃宮くん!」
「ッ! あ、ああ」
一瞬、光司は心臓が大きく跳ねたのを感じたが、それが何故なのか光司自身にも分からなかった。
それからしばらく3人は少し話し合っていたが、陽華と明夜も変身を解除すると、3人は光の粒子となってその場から消えた。
『ふう、もう茂みから出て大丈夫ですよ影人。陽華と明夜は学校に送りましたし、守護者はラルバが送りました』
ソレイユの言葉を聞いた影人は、すぐさま茂みから出て近くの木に寄りかかった。そして大きなため息を一つついた。
「ったく、朝宮のやつめ余計なことを・・・・・おいソレイユ、俺の存在は香乃宮が言ってたラルバってやつは知ってるのか?」
『いいえ、影人。あなたの存在はラルバも知りません。なので、もし陽華がラルバに会えば少し厄介なことになりますね』
ソレイユが言っている厄介なことが何を意味しているのかは影人にも理解できた。
「つまり・・・・香乃宮が、守護者が俺の敵になるかもしれないってことか」
『ええ、あなたは私以外に正体を知られてはなりません。あなたが正体を明かせないということは、ラルバも、彼の管轄の守護者も、あなたを不審な人物として対応するでしょう。加えて、あなたの力の属性も不審な人物の理由となるでしょう』
「最悪だな・・・・・」
再び大きくため息ををつくと影人は頭を掻いた。影人はその立場上、光司や陽華に明夜たちに自分が味方とは明かせない。たった一人で影から暗躍する。それがソレイユが影人に与えた役割だからだ。
「ソレイユ、一応聞くが、朝宮がラルバに会うのを阻止できないのか?」
『陽華のあの様子だと難しいでしょうね。それに私が陽華にラルバに会うなというのもおかしいでしょう?』
「だよな・・・・・はあ、面倒くさい」
影人の心とは裏腹に空は青く澄んでいた。




