第1290話 ただ1つの願い(5)
「・・・・・・事は上手く進んでいますかね。上手く進まなければ、色々と都合が悪いのですが・・・・・・」
真夜中の神社の境内にいた『物作り屋』と呼ばれる男は、難しげな顔を浮かべながらそう呟いた。1度転移して自分の武器庫に戻り、人形と『帰還の短剣』を手にした男はそれらを女に手渡した。男は真界に行った女の帰りを待っていた。
「っ・・・・・・」
男が女を待っていると、突然参道の真ん中に白い門が出現した。すると、その中から透明の瞳をした女が現れた。女は満足そうな顔で、右手に何かの容器を持っていた。
「お帰りなさい。その様子だと・・・・・・上手くいったみたいですね」
「ん? ああ、上々だぜ。吾の目的は果たされた。力も全盛期の半分だが戻ったしな」
「それはよかった。では、人形はどうでもいいのですが、『帰還の短剣』を返していただけ――」
「ああ悪い。あれはシトュウに、現在の『空』に消された。だからないよ」
「え、ええ・・・・・・」
言葉とは裏腹に、全く悪びれていない顔でそう言って来た女に、男は嘘だろといった顔になる。何だかんだ、効果が珍しい武器だから重宝していたのに。こんな事ならば貸すんじゃなかった。男はそう考えてしまった。
「だから悪かったって。まあ、力は取り戻せたから、お前が言っていた願いは叶えてやるよ。それでいいだろ?」
「・・・・・・はあー、分かりましたよ。今回はそれで呑みましょう」
女にそう言われた男は、ため息を吐くとコクリと頷いた。何をしても、どうせあの短剣は返ってこないのだ。ならば、もう諦めるしかない。
「それで、その右手に持っている物は何なんですか?」
男は話題を変えるように、女がずっと右手に大切そうに持っている容器に視線を移した。容器には何かぼんやりと光るモノが入っている。
「これは吾の1番大切なモノだよ。さて、『物作り屋』。悪いが今日はもう帰ってくれ。お前の願いは後日に叶える。吾は今からやらねばならぬ事があるんだ」
「それは了解しましたが・・・・・・いったい、何をするのですか?」
男は不思議そうな顔で女にそう聞いた。すると、女はニヤリと笑った。
「決まっている。吾は最も大切な人間の魂の残骸を手に入れた。なら、そんな吾がやる事は1つしかない。『物作り屋』、吾が今からやるのは・・・・・・」
そして、女は男にこう言った。どこか超然とした笑みを浮かべながら。
「『死者復活の儀』だよ」




