第128話 提督襲来(1)
シェルディアが帰城家の隣の部屋を滞在先として、陽華と明夜が風音と模擬戦を行った日から、数日が経過した。
暦は6月を記し始めた日、影人は照りつける太陽に辟易としながら、学校へと向かっていた。
6月といえば小さい頃はまだ多少は暑さがましだったと影人は記憶しているが、現在の6月の暑さは中々に殺人的だ。
「・・・・・・・・くそ暑い」
まだ朝のはずだが、それでも暑い。
なんだか最近は暑いしか言っていないような気もするが、暑いのだから仕方ない。影人は基本的に暑がりなのだ。
「・・・・・・・・・今日は嬢ちゃんに呼ばれもしてねえし、あいつからの仕事もなければ、放課後は久しぶりにゆっくりできそうだ・・・・・・・・」
ボソボソと癖の独り言を呟きながら、影人は前髪の下で死んだような目をしている。あいつというのは、もちろんソレイユのことだ。
ここ最近、影人は忙しかった。学校はもちろんのことだが、それ以外にも放課後は隣のシェルディアと遊んだり(半ば強引にだが)、町を案内していたりしていたからだ。
だが、影人が最もここ最近を忙しいと感じた要因は、スプリガンとしての活動だった。
ダミー活動として影人はここ数日、日本各地の光導姫と守護者にその姿を確認させた。もちろん、光導姫と守護者が現れるということは、闇奴も出現したということなので、適当に闇奴を攻撃したりもした。
(まあ、東京以外にも転移でスプリガンとして現れたから、ダミー効果はあるだろうと信じたいがな・・・・・)
逆を言ってしまえば、スプリガンはまだ日本にしか出現していないということになる。だが、外国でスプリガンを知っている光導姫と守護者の数は相当に限られているはずだ。光導姫だけについて言うのならば、正確にスプリガンの情報を知っている外国の光導姫はまだ8人ほどしかいないのだから。
(俺は俺で色々と工作まがいのことをやってたが、あいつらはなんか特訓してるらしいし・・・・・・・・・よく分からんな)
あいつら、つまり陽華と明夜のことだが、2人は週に1回程度、ある光導姫に稽古をつけてもらっているらしい。光導姫の神であるソレイユが、その情報を自分に伝えてきたのだ。
しかも稽古をつけてもらっている光導姫は、日本最強の光導姫『巫女』であるようだ。
(・・・・・・なんか王道マンガみたいだな)
『巫女』というのは自分も一度会ったことのある、あの巫女装束の光導姫のことだ。もちろんスプリガンの姿でだが、周囲に何か札のようなものを浮かせていて、ビームを撃ちまくっていたというのが影人の印象だった。中々にイカれた印象である。
「・・・・・・・・まあ、俺には関係ないか」
あの2人がいくら強くなろうが、自分には関係のないことだ。自分はただ影から仕事をするだけなのだから。
前にもそんなことを思った気がするが、人間というのは同じようなことを何度も考えてしまう生き物なので仕方ないだろう。
「でも、今日くらいは平和な日になるといいな・・・・・・・」
雲の少ない晴れた青空を見上げながら、見た目の暗い少年は少し疲れたようにそう言った。




