第1274話 平和な世界、予兆(1)
「――おーい明夜。こっちこっち!」
「あれ陽華? 私が部活終わるまで待ってたの? 長かったでしょうに」
4月11日木曜日、午後5時過ぎ。風洛高校の正門前で明夜を待っていた陽華は、正門から出てきた明夜に向かって手を振った。陽華の姿を見た明夜は、少し驚いたようにそう言葉を返した。
「全然。他の友達とお喋りしてたから長いって感じはなかったよ」
「ああ、そう。女子してるわね。じゃあ帰りましょうか。あ、そうだ。『しえら』寄っていかない? 私、あそこのアップルパイ食べたい」
「いいね。じゃあ、そうしよう!」
「よし、糖分取りに行くわよ!」
陽華と明夜はそう言葉を交わし合うと、喫茶店「しえら」を目指し歩き始めた。
「それにしても、あのレイゼロールとの最後の戦いからもう3ヶ月。私たちも高校3年生かー。時間が経つのは早いよね」
「本当にね。私も夏になったら書道部引退だし、進路の事も本格的に考えないとね。あー、嫌だわ」
「あはは、だよね。私もだよ・・・・・」
今から3ヶ月前、陽華と明夜は光導姫や守護者、シェルディアやシエラ、最後には敵であったはずの闇人といったみんなと協力して、レイゼロールを浄化して救った。ソレイユやラルバ、神界の神々とレイゼロールが和解した事によって、世界に闇奴や闇人が発生する事はなく、世界はその面に関しては、一定の平和を享受するに至った。
そして、それは光導姫や守護者が必要なくなったという事でもあった。あの戦いから3ヶ月経った今現在、光導姫と守護者はもう存在しない。全ての光導姫と守護者はその力をソレイユとラルバに返還した。当然、陽華と明夜も。2人はただの高校生に戻っていた。
「でもあの戦いを、光導姫として戦った経験は絶対にこれからの人生に役立つよ。一応、私たちの今の進路選択は進学だし、頑張ろう明夜!」
「分かってるわよ。私もキャピキャピのキャンパスライフを陽華と一緒に送りたいもの。やったるわ! 気合いよ気合い!」
歩きながら2人は笑顔を浮かべる。明るい未来を夢見て、2人の少女はそう言葉を交わし合った。
「あれ? ねえ、明夜。あの後ろ姿、香乃宮くんじゃない?」
10分ほど歩いた時だろうか。喫茶店「しえら」まであと半分ほどといった距離で、陽華は自分の前を歩く光司の姿を見つけた。学校帰りのためだろう。光司は陽華や明夜と同じく制服姿だった。
「本当だ。おーい、香乃宮くーん!」
陽華の指摘でその事に気がついた明夜は、前方を歩く光司にそう呼びかけた。
「? 月下さんに朝宮さん? 奇遇だね、こんな所で会うなんて。ああ、もしかして、2人も『しえら』に行く感じかな?」
自分の名を呼ばれた光司は、振り返り陽華と明夜の姿を見ると、爽やかな笑顔でそう聞いてきた。
「うん、そうだよ。もって事は香乃宮くんも『しえら』に行く途中なんだね」
陽華は光司の言葉に頷くと、そう言葉を述べた。陽華の言葉に、今度は光司が頷いた。
「そうなんだ。どうしても、あのアップルパイが食べたくなっちゃって」
「私たちもよ。じゃあ、香乃宮くん。一緒に『しえら』に行きましょうよ」
「ありがとう月下さん。では、そうさせてもらうよ」
明夜の提案に光司は相変わらず爽やかな笑みを浮かべ、感謝の言葉を述べた。この笑顔に風洛高校の女子生徒は心を撃ち抜かれるのだ。イケメン恐るべし。3人は喫茶店「しえら」に向かって歩き始めた。




