第1271話 変身ヒロインを影から助けた者(5)
「・・・・・ああ、分かってるよ。こんな俺でも死ねば悲しんでくれる人はいる。それくらいの事は俺にも予想できる。俺、そこまでは捻くれてねえし」
「だったら、そんな簡単に死ぬだなんて言わないで! 最後まで生きようとしてよ! そうだ、今からでもレールやシェルディア、他のみんなにも連絡して、あなたが生きれる方法を探そう! 大丈夫、きっとみんなでなら――!」
ソレイユが名案だと言わんばかりにそう言う。だが、影人は首を横に振りこう言葉を割り込ませた。
「悪いが、どう足掻いてもそれは無理だ。俺はあと数分でこの世界から完全に消える。それと同時に・・・・・・・・俺がこの世界に存在していた事実も、完全に消え去る。俺と関わった全ての者の記憶から、俺に関係していた物質すら、全てな。俺は初めから、この世界に存在していなかった事になる。お前やレイゼロール、ラルバといった神々。嬢ちゃんすらも例外じゃない。言葉通り、俺と関わった全ての者から」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
唐突にそんな事を聞かされたソレイユは、再び呆然とした顔を浮かべた。何だ。いったい影人は何を言っている。ソレイユには影人の言葉の意味が分からなかった。
「お願いしたんだよ。お前らの上にいる上位の神に。真界の最上位の神にな。『俺が再び死ぬ時に、俺という存在がいたという事実を消してくれ』ってよ」
呆然とするソレイユに、今やかなり体が透明に、その存在が薄くなった影人はそう説明した。そう。それこそが、影人があの『空』と名乗っていた女神を脅して、叶えてもらった願い。生き返っても、再び短期間で死ぬと分かった影人は、自分が死んで生じる悲しみを消すためにそんな願望を抱いたのだ。
「し、真界の最上位の神に・・・・・・・・・? え、影人・・・・・・あなたは・・・・・・・・いったい・・・・・・」
真界の神々。ソレイユも神の端くれだ。その存在は知っている。神界の神々よりも更に強力な力を持った一部の神々。上位神とでも言うべきような存在。だが、知っているだけでソレイユも会った事はない。ましてや、その最上位にいる神の事など。
「まあ、深くは気にするな。すぐに忘れる事だ。さて・・・・・」
影人はすっかり薄くなった自分の体を見下ろした。影人の体から出る黒い粒子も、どんどんとその量を増やしていっている。まるで、出し切るかのように。
「・・・・・そろそろ、お別れだ。あばよ、ソレイユ。お前らは元気で、楽しく生きろよ」
「嫌よ! あなたが消えるなんて、あなたの存在すら忘れるなんて絶対に嫌! あなたは勝手よ影人! 私たちからあなたの記憶を勝手に奪うなんて! 私たちは悲しむ事も、あなたを思い出す事も出来ないじゃない! 卑怯者、この卑怯者!」
文字通り、儚い笑みを浮かべる影人に、ソレイユは泣き叫びながら影人を糾弾した。その糾弾は影人を思った上での糾弾だった。その事が分かっていた影人はふっと笑った。




