第1266話 約束(8)
「あ・・・・・・・・」
暖かな光に包まれ、人々の正の想いを感じたレイゼロールは正気を取り戻した。消えなかった絶望の闇が、暖かく包まれ消えていく。レイゼロールの『終焉』の力は解除され、瞳の色がアイスブルーに戻る。
「エイ・・・・ト・・・・?」
そして、レイゼロールは自分に抱き付いている影人に気がついた。影人は浄化の光に包まれた瞬間、スプリガンとしての変身が解除されていた。それはスプリガンの力が闇の力だったからだ。強力に過ぎる光の浄化の力は、影人の変身を強制的に解除した。
「・・・・悪かった。長い事、本当に長い事待たせちまって。本当にごめんな。でも、約束は果たしたぜ」
「ああ、エイト。エイト・・・・ずっと、ずっと待ってた。お前が死んだと思った時も、我はずっと・・・・お前との約束を忘れられなかった・・・・! ううっ、ううっ・・・・!」
抱き締めながらそう言った影人に、レイゼロールは泣きながらずっと心の奥に仕舞っていた言葉を吐き出した。先ほど死んだはずの影人がどうして生きているのか、レイゼロールには何も分からない。だが、こうして影人は生きている。レイゼロールにとってはそれが全てだった。
「ありがとうな。ずっと俺の事を覚えてくれてて。素直に嬉しかった。なあ・・・・・・・・あの時は聞けなかったお前の名前・・・・今度こそ教えてくれるか?」
「っ!」
その言葉を聞いたレイゼロールは驚いたように目を見開いた。影人は既にレイゼロールの名前を知っている。だが、影人はわざわざそう聞いてきた。それは影人がレイゼロールと別れる前の最後の言葉を覚えているからだった。
「・・・・ああ、いいだろう。我の名前は、レイゼロール。遥か昔にお前と約束を交わし、お前を待ち続けた者だ」
「知ってる。いい名前だよ。俺の名前はエイト。帰城影人だ」
「帰城影人・・・・・それがお前の本当の名前か・・・・ふっ、いい名前だな」
「だろ?」
人々の正の想いの光の中で、2人は抱き合いながらそんな言葉を交わし合う。やがて、光の奔流は収まり、2人は地上にいた。レイゼロールが正気を取り戻した事で、儀式の暴走した闇は全て晴れ、『終焉』の闇の暴走で中断されていた闇の祭壇は、儀式の失敗を示すかのように1人でに崩壊した。その結果、空が青空へと戻る。
「・・・・・・・・・ソレイユ。どうやら、俺は間違っていたみたいだ」
その光景を見ていたラルバが、ポツリとそんな言葉を漏らす。その言葉を聞いたソレイユは、
「うん、そうだね。あなたは昔から1人で全部背負うとする所がある。これからはやめてね、それ。だから・・・・・あなたの罪は私も半分背負うよ」
幼馴染であるラルバにそう言った。その言葉を聞いたラルバは、「っ・・・・・うん・・・・うん・・・・!」と言って涙を流した。それは後悔と安堵の涙だった。
「よし、じゃあ行こうぜ、レイゼロール。あいつらの所に」
「ああ、分かった」
しばらく抱き合った影人はレイゼロールの手を握ると、光導姫や守護者、闇人たちが集まっている方に手を向けた。影人にそう言われたレイゼロールは笑顔を浮かべ頷くと、影人と共に歩き始めた。
――こうして、光と闇の戦いは終結し、影人とレイゼロールの約束は果たされた。




