第1254話 始まりの記憶2(6)
「っ・・・・・そうですか。ありがとうございます。あなたのその決断に、心からの感謝を」
ソレイユは影人に感謝の言葉を述べると、転移を中断した。影人を包んでいた光が消え始める。
「では、私の方に近づいてください。これからあなたに、力を授けます。特別な力を」
「っ、クソッ・・・・・・・・」
影人はそう呟くと仕方なしにソレイユの方へと近づいた。
「それでは・・・・・」
ソレイユは両手を自身の胸に当てた。そして、少し力を込めるようにギュッと手に力を込める。「ん・・・・・」と少し苦しそうな顔をソレイユは浮かべた。すると数秒後、
「ふっ・・・・・・・・・!」
ソレイユの胸から無色透明の光が出てきた。それは先ほど陽華や明夜が触れた光とは、どこか違うものだった。そして、ソレイユはその光を両手で持って影人の方へと差し出してきた。
「この光に触れてください。そうすれば、あなたは力を得ます。私が与えるのは力だけ。それがどのような力になるのかは、あなたの性質に依存します。ですが、いずれにせよそれは特別な力です」
ソレイユが影人に差し出した光は、自身の神力。文字通り神の力。この方法ならば、ソレイユは男性にも力を与える事が出来る。ただし、これは禁忌。人間に神力を与える事は神にとっての禁忌。他の神にバレれば、ソレイユには罰が待っている。だが、ソレイユはそんな禁忌を犯してでも、影人に自分の力を与えようとした。
「・・・・・ああ、そうかよ。特別なんてクソ喰らえだ。本当はそんなものになりたくはねえ。だけど・・・・・なってやるよ。その特別ってやつに!」
そして、影人はその光に自身の手で触れた。その瞬間、光は透明の輝きを放った。
こうして、影人はソレイユから力を与えられ、宝を守る妖精――スプリガンになった。
「・・・・・・・・・・俺がスプリガンになったのは、家族を、俺の大切なものを守るためだった。唐突に知った脅威から、守るための力を得るためだった」
あの日の事を思い出しながら、影人は男にそう言った。フッと自然に笑みが溢れる。元々、影人は陽華や明夜たちと共に戦うはずだった。ソレイユはそのつもりで影人に力を与えた。
だが、影人に発現した力は闇の、暗躍するのに打ってつけの力だった。影人があの光に触れた時、影人とソレイユに力の知識が流れた時には驚いたものだ。そこから、怪人としてのスプリガンが誕生した。
「・・・・だけど今思えば、光導姫になる事を決めたあいつらの事も気になってたんだろうな。大勢の他人を守る覚悟をしたあいつらの事を。俺はあいつらの中に・・・・人の善意を見た。美しく輝くような善意を。その善意を失くしたくないって、守らなきゃならないって、俺は傲慢にも思ってたんだろうな」
戦う2人を誰が守るのか。あの時の影人は、無意識にその役目を自分がしなければならないと思っていた。まあ、結局光導姫はあの2人だけでなく、守護者もいたのだが。
「そう、だったのか・・・・・・・・ありがとう教えてくれて。ただ、君がそこまで素直に教えてくれたのは意外だったよ」
影人の原初の戦う理由を知った白髪の男は、真剣な顔で頷くと、軽く笑みを浮かべながらそう言ってきた。
「はっ、知らねえのか? 俺はいつだって素直だぜ」
影人は男に笑いながらそう言った。まあ嘘だ。影人は他人に本来ここまで素直に自分の気持ちを教えない。教えたのは、男に対する礼のようなものだった。
「じゃ、俺は今度こそ行くぜ」
「ああ、行ってらっしゃい帰城影人くん。どうか・・・・・・・・僕の妹の事をよろしく頼む。そして、彼女に教えてやってくれ。『終焉』の力は、本当はどこまでも優しい力だという事を」
白髪の男――レイゼロールの兄の神である、レゼルニウスからそう言われた影人は、扉の方を振り返り、右腕を伸ばし、右手の親指を上げた。いわゆるサムズアップの形だ。
「任せろよ。今度こそ、俺がハッピーエンドにしてやる」
そう言って、影人は生者の世界へと続く門を開いた。
瞬間、光が差した。




