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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
125/2051

第125話 決着。新たな隣人(1)

「全式札、形態解除」

 未だ空中に漂う風音は全ての式札の変化を解除した。風音の周囲に再び合計10の式札が展開される。

 既に風音は落下態勢に移行している。このまま何もしなければ、あと数秒ほどで地面に激突するだろう。

(そろそろ終わりにしましょうか・・・・・・)

 だが『巫女』はそんなことは考えない。彼女にとってたかだか10数メートルの落下など恐怖を感じない。光導姫の使命は命がけ。どうしてこれほどの事で恐怖を抱くだろうか。

「全式札、寄り集いて――」

 上下逆の世界ではあるが、眼下では陽華と明夜の元に、2つの光が戻るような軌道で吸い寄せられていく。

 光はガントレットと杖に姿を変えると、それぞれの主の元へと返っていった。

「でもッ! まだ!」

「チャンスはある!」

 陽華はガントレットを装備し直した手を握り、風音が落ちるであろう落下地点めがけて駆け出した。明夜も杖を握り直すと、氷弾を4発発射した。

「――龍神となる」

 しかし、結果的に言えばもう遅かった。とおの式札は、1つに集まり光を放つ。明夜の放った4つの氷弾は、風音に当たる前に何か巨大な生物に直撃し、砕かれた。

 その生物は一見すると巨大な蛇のようであった。だが、その生物が蛇ではないと示すかのような特徴がいくつか見受けられる。

 まず手があった。人間と同じく5本の指ではあるが、その指には鋭いかぎ爪が生えていた。

 1番特徴的なのはその頭部だ。大きく開いた口には牙がびっしりとある。そして極めつけは、霊験あらたかなものを感じさせる立派な角だ。

 いつの間にか風音はその生物の頭に着地していた。

「「・・・・・・・・・・・」」

 その存在感に明夜も、陽華も駆ける足を止めてその生物を見上げた。いや、見上げるしかなかった。目を引きつける有無を言わせぬ存在感がその生物にはあった。

 風音の言葉からも分かる通り、それは本来なら空想上の生き物のはずだ。

 そう、龍などという生き物が本当に存在するはずが――

「グォォォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァァァッ!!」

 だが、そんな考えを否定するかのように龍の咆哮が白い部屋に木霊こだました。

「「ほ、本物・・・・・・・・!?」」

 陽華と明夜は唖然とした顔でそう叫んだ。

「うん、そうよ」

 風音は荒ぶる龍の頭頂で、静かに微笑んだ。

「さて、大人げなく龍を出してしまったけれど、このまま模擬戦を続ける? 私としては、あなたたちの実力は十分に見れたから、もうここで終わってもいいんだけど・・・・・・・でも、もし続けたいっていうなら一応警告。この、雷を降らせたり、口から超高密度のエネルギーを吐き出すから、気をつけてね」

「ええ・・・・・・・」

「む、無茶苦茶だ・・・・・・・」

 風音の言葉の内容を聞いて明夜と陽華が、立ちすくむ。そんなに優しい笑みを浮かべながら言う内容では、決してないと思うのだが。

 陽華と明夜は互いに顔を見合わせた。自分たちの数十倍もあろうかという龍が、雷を降らせたり、口からビーム(超高密度のエネルギーとは、おそらくそういうことだろう)を撃つというのだ。はっきり言って勝てる気がしない。

「「・・・・・・・・・降参します」」

 陽華と明夜は諦めたようにそう言って、両手を上げた。

「2人の降参を認めます。――芝居」

 陽華と明夜の負けを認める言葉を聞き終えた風音は、厳かにそう宣言し傍観者である新品に視線を向けた。

「わかっているでありますよ。――この模擬戦、勝者『巫女』!」

 第3者であり光導姫でもある新品の言葉を以て、陽華と明夜の初めての模擬戦は幕を閉じた。

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