第1243話 生と死の狭間で(5)
「へえ・・・・・なら、そいつらなら出来るんだな。俺が言った事が。よし、ならその真界ってとこに俺を連れてけ。どうせ、ここもその真界ってとこも、現実世界との時間の流れは違うんだろ。だから、まあ大丈夫だろ。ほら、早くしろよ」
「え!? いや、そんな無茶な事言わないでほしいな!? そもそも、僕があの世界の扉を開けたとしても、君には真界に入れる資格がないんだ。僕だって、あの方の許可がないとあそこには入れない。あの世界に入れるのは、一部の上位の神々しか・・・・・・・・・」
「やってみなきゃ分からねえだろ。早くしろ。じゃなきゃ、お前から受け継いだ力を使って、お前をもう1回殺す」
「ええ、そんな無茶苦茶な・・・・・・・・はあー、分かったよ。開くだけだからね」
影人からそう脅された男は、引いたような顔になると、ため息を吐き両手を暗闇に向けた。
「冥府の神である我が開き望み給う。開け、空たる存在へと続く真界の門よ」
男がそう言葉を紡ぐと、男の両手の先に透明な門が出現した。その門は無色の輝きを放っていた。
「サンキュー。じゃ、ちょっと待ってろ。すぐに用を済ませて戻って来るからよ」
影人は透明の門の前まで移動すると、男にそう言った。
「いや、だから人間の君がその門を潜れるわけ・・・・・」
「よっと」
男が呆れたような顔を浮かべる中、影人は門を押して開くと、光指す世界の中へと足を踏み入れ、そして消えて行った。
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
影人が何でもないように門を潜り、向こうの世界に消えた事に、男はポカンと口を開き呆然とした。
「何だよ、普通に入れるじゃねえか。嘘ばっかりだな、あいつ・・・・・」
門を潜った影人は、そう呟きながら周囲を見渡した。透明な光が降り注ぎ、煌めく星々が黄昏の空を照らす不思議な空間だ。影人は空中に浮かぶ台の上にいた。目の前には階段がある。階段の上には、影人が立っている場所と同じ、空中に浮かぶ台がある。とりあえず、影人はその階段を登った。
「――何者ですか」
影人が階段を登り終えると、前方からそんな声が聞こえて来た。女の声だ。影人は顔を上げた。
台の真ん中には、荘厳な透明の座椅子のようなものがあり、そこに1人の女が座っていた。
女は凄絶なまでに美しかった。薄い紫の長い髪に、人形のような面。その顔に感情はなく、透明の色をした瞳で影人を見つめていた。服装は、白と透明のベールのような服装だ。しかし、透けている感じはなかった。




