第1242話 生と死の狭間で(4)
「うん、そうだ・・・・・だから、君は――」
「だったら、俺はその第3の道を選ぶ」
男が影人に何かを言う前に、影人は自身が第3の道を選ぶ事を男に伝えた。
「っ、本当にいいのかい・・・・? この道を選べば、君は・・・・・・・・」
「そんなもんはどうでもいい。確かに、この道じゃ俺は大切な約束の内、1つしか果たせない。加えて、その代償が2つだ。正直、自分本位に考えりゃ、この道は割に合わない。・・・・・だがな」
影人はどこまでも強気な笑みを浮かべると、こう言った。
「1つでも果たせるなら、俺は喜んで生き返る。後の事は知った事じゃねえ。あいつとの約束を果たす。これは俺の欲望だ。知ってるか? 人間の欲望ってやつは、本当にどうしようもないんだぜ。だから、寄越せよ。俺にその力を。後悔なんざしねえからよ」
影人は地獄へと続く門に背を向け、男の方へと歩いた。そして、男の前に来ると黙って男を見つめた。
「本当に君という人間は・・・・・・・・・ありがとう。正直に、本当に正直に言えば、僕は君にこの道を選んでほしかった。君がどうなるかを知っていたのに。耐えられなかったんだ。あの子が、あんなに泣き叫んでいるのが・・・・・」
「っ、あんたは・・・・・・・・・」
男は悲しそうで嬉しそうな顔で、震えた声でそう言葉を絞り出した。その言葉と今までの男の言動を思い出した影人は、この男の正体が誰だか分かったような気がした。
「・・・・・気にするなよ。言っただろ、これは俺の欲望だって」
「それでも、だよ。僕は君に、心から感謝する。君は、僕たちにとって恩人だ」
男は泣きそうな顔で笑うと、影人にこう言葉を告げた。
「では、触れてくれ。触れれば、この力と力についての知識が君の中に流れ込む」
「ああ、分かった」
影人は右手を上げて、黒い球体に触れた。すると、黒い球体は一瞬闇色の輝きを放ち、影人の右手へと吸い込まれていった。
「っ・・・・・!」
影人の中に力とその知識が流れ込んでくる。影人は、自分がソレイユと契約を結んだ時の事を思い出した。
「そうか・・・・・やっぱり、あんたは・・・・・」
力と力についての知識を受け継いだ影人は、男の正体が分かった。やはり、男は先程自分が予想していた者と同じ人物であった。
「そう言うって事は、僕の正体をあらかた予想していたんだね。やっぱり、君は勘がいい」
男はただ笑っていた。自分の妹と同じ色の髪を揺らしながら。
「さて、なら後は現実世界へと続く道を開くだけだね。少しだけ待って――」
「ちょっとだけ待ってくれ。この力は――って言う使い方は出来ないのか?」
男の言葉を遮って、影人はそう言葉を割り込ませた。男から受け継いだ知識の中に、影人が今質問したような力の使い方はなかったからだ。
「え・・・・・? どうして、そんな質問を・・・・・?」
「いいから答えろ」
影人の質問に面食らった男は、逆に影人にそう聞き返して来る。影人は男の質問を無視し、再びそう聞き迫った。
「・・・・・流石に出来ないかな。そのレベルの話となると、神界の神々・・・・・いや、そのもう1つ上のレベルに存在する、真界の神々・・・・・その最上位神レベルの力がないと・・・・・」
「真界の神々・・・・・? 何だよそれ。神界の、ソレイユとかとは違うのか?」
「神界の神々の役割は、地上世界、現実世界の安定だよ。対して、真界の神々の役割は宇宙や平行する世界、もしくは別次元の世界の安定。神界の神々が下位の神々とするなら、真界の神々は上位の神々という感じかな」
男が影人の疑問に答えた。まさかそんな世界があったとは知らなかった影人は、軽く驚いた。




