第124話 模擬戦(3)
1つの弾丸と化したようなスピードで陽華は凄まじい速度で風音に迫る。そして渾身の右ストレートをその勢いのまま繰り出した。
「!? そう来たか!」
これにはさすがの風音も予想していなかったようで、避けるのではなく、その一撃を受け止めるため防御態勢へと移行する。
「第6式札、光の盾と化す!」
風音の周囲に停滞していた残り5つの式札の内、1つが風音の前に移動する。その式札は輝いて光の盾へと姿を変化させた。
そして陽華の右ストレートはその盾に阻まれ、風音に触れることはなかった。
「今のは良かったですよ」
透ける盾ごしに風音が口角を上げてそう言った。その笑みは先ほどと同じくどこか意地が悪いように思えた。
「――その余裕も」
だが、笑っていたのは陽華も同じだった。
「ここで終わり!」
「っ!?」
陽華の言葉を引き継ぐ形で明夜が杖を振るう。風音が陽華に気を取られていたほんの少しの隙を突いて、明夜は水の蔓を風音の足首へと巻き付けていた。
どうやらその蔓は拘束を目的としたものではなく、風音を空中へと投げ飛ばすことを目的としていたらしい。風音はその蔓によって空中へと投げ飛ばされた。
「陽華!」
「分かってる、明夜!」
風音が言っていたとおり、全力で応じなければダメージを与えることも、ましてや勝つことなど出来はしない。そんなものは夢のまた夢だということはこの闘いで分かった。
ならば、今の自分たちの全力をぶつけるしかない。
「「汝の闇を我らが光に導く」」
「ッ!? あれをやる気か・・・・・・・・」
2人と共に何度も闇奴と戦ったことのある光司には、その言葉が2人の決め手、いわゆる必殺技を放つのに必要なものであるということを知っていた。
「逆巻く炎を光に変えて――」
「神秘の水を光に変えて――」
陽華が右手を今だ空中にいる風音に向かって、前方に突き出す。明夜も左手を同じく前方に突き出した。
(ッ!? これは・・・・・・・)
2人の様子から何かただならぬ雰囲気を感じた風音は、その顔を真剣なものへと変える。
陽華のガントレットと明夜の杖が眩い光へと変わり、2人の突き出した手に宿った。
「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
そして遂に光の奔流が『巫女』に向かって放たれた。
(なるほど・・・・・・・さすがにこれをまともに受ければ、私もダメージを負うことは避けられないかな)
自分に迫る光の奔流を見て風音はそんなことを思った。
本来は闇奴を浄化するための光なのだろうが、この光を闇奴以外が受ければ人間や光導姫にもダメージを与えることは可能だろう。
もっと生々しく言えば、その光には確かな殺傷力があった。
(機転は利く。言葉を交わさずとも共に行動できる連携力もある。うん、2人は将来いい光導姫になる・・・・・・・・!)
1人に対する評価ではなく、あくまで2人に対する評価だが、自分がいまこのような状況に置かれていることが、2人の将来への希望性を象徴している。
もちろん、モロにこの光を喰らえば風音とてそれ相応のダメージを受ける。それは風音の心中の考えからも分かることだが、この状況において風音の心境はどこか呑気に思えない事もない。
そう、風音には余裕があった。そしてこの目の前に迫る光を、どうにか出来るという確信があった。
「――第6式札から第10式札、力となりて奉納刀に宿る」
風音の言葉を受け、周囲に停滞していた残り全ての式札が輝き、風音の持つ刀に宿る。風音の持つ式札が寄り集まって出来た刀が淡い光を放つ。
上下逆さまの世界で風音は迫り来る光の奔流を見据え、静かに刀を振るった。
「破邪一剣」
そして嘘のような光景が広がった。風音が静かに刀を振るっただけで光の奔流は綺麗に切り裂かれたのだ。
「う、嘘!?」
「本当に人間なの!?」
これには陽華と明夜もあんぐりと口を開ける。自分たちの必殺技がまるで嘘のように切り裂かれたのだ。そのショックは凄まじい。
「おおう・・・・・・・・相変わらずウチの会長はえげつないでありますな・・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・新人とはいえ光導姫2人の最大浄化技を、ただの浄化技で相殺するなんて真似が出来るのは、さすが光導十姫の1人だ」
真剣な顔で、一般人には意味の分からない言葉を発する光司は、どこかシュールな気もしたが、それぞれの言葉の意味は以下のようなものだ。
最大浄化技とは、いま陽華と明夜が放った浄化の光の奔流のようなもののことだ。光導姫における必殺技と言っても良いだろう。
次に浄化技だが、これは明夜の氷弾や風音の斬撃などのことを指す。つまり浄化の力の宿った技や魔法のこと指す。そう言う意味では、アカツキの「風の旅人」は浄化技とはいえない。あれはあくまで浄化の力を宿した風による身体能力の強化だからだ。
そして最後に光導十姫だが、これは単に光導姫ランキングの1位から10位の別称なのようなもので、特に意味は無い。
「これは勝負あったでありますな」
おそらく次の攻防でこの模擬戦は終わるだろう。相手の最大威力の技を易々と打ち破った風音を見て、新品はそう呟いた。




