第1232話 スプリガンVSレイゼロール、最後の戦い2(6)
「え・・・・・・・・・・・・?」
影人が無意識にそう声を漏らし、後ろに振り向く。振り向くと、影人から10メートルほど離れた場所に、なぜかもう1人レイゼロールがいた。次の瞬間、レイゼロールは影人に向けていた右手の先から『終焉』の闇を放ち、
影人の無防備な胸部に『終焉』の闇が触れた。
「影人!?」
『おい嘘だろ!?』
その瞬間、その光景を神界で見ていたソレイユは悲鳴のような声を漏らし、影人の内にいるイヴも叫ぶようにそう言った。
「な、何で・・・・・・・・」
『終焉』の闇をその身に受けてしまった影人が疑問の言葉を漏らす。なぜ。レイゼロールは後ろにいたはずなのに。瞬間移動では決してなかった。影人はその視線を後ろに向ける。そこには、やはりまだレイゼロールがもう1人いた。いったいどういう事だ。影人がそう思っていると、影人に『終焉』の闇を放ったレイゼロールがこう言葉を口にした。
「・・・・後ろにいるアレは我の分身だ。お前が闇の奔流を弾いた瞬間、我は透明化を使いそこにいる分身を発生させた。分身ゆえ、『終焉』の闇は使えんので放たせたのはただの闇だがな。しかし、効果はそれで充分だった」
「ああ・・・・そういう事か・・・・」
レイゼロールの言葉を聞いた影人は、命が徐々に消えていくような感覚を味わいながら、そう呟いた。要は、影人は罠にかかったのだ。レイゼロールは最初から3人ではなく、影人を殺そうとしていた。
つまり、レイゼロールはいつかの影人がゼルザディルムとロドルレイニに行ったような事をしたのだ。分身に言葉を話させ、分身の目の色は漆黒のままという細かな仕込みに、ただの闇と『終焉』の闇との見分けがつき難いという事すらも利用して。そして、レイゼロールは静かに影人に近づいて、決定的な攻撃を行った。
『影人! 影人! しっかり、しっかりして! あなたが死んだら誰が! いったい誰がレールを救うっていうの!?』
『レイゼロールとの約束を果たすんだろ!? なら死ぬな! 死ぬんじゃねえよ! こんなもんで死ぬお前じゃねえだろ影人!?』
ソレイユとイヴの必死な声が影人の中に響く。それは励ます声だった。
「え、スプリガン・・・・・・・・?」
「いったい、何が・・・・・・・・」
「レイゼロールが2人・・・・?」
一方、未だに事態が飲み込めていない陽華、明夜、光司は戸惑ったような顔を浮かべていた。3人には影人が『終焉』の闇を受けた瞬間が見えなかったのだ。
「・・・・貴様を殺すのには本当に手間取った。お前は本当の強者だった。だが・・・・我の勝ちだ」
レイゼロールは分身を消しながら、影人にそう言った。その言葉を聞いた影人は、力ない笑みを浮かべる。
「は、ははっ・・・・ちくしょう、マジかよ・・・・あと、本当に、あとちょっとだったのになぁ・・・・」
命の火が消えゆく。冷たさが全身に広がっていく。ああ、本当にあと少しで自分は死ぬのだなと影人は思った。
「ごめんな、本当にごめんなレイゼロール・・・・約束、守れなくて・・・・お前を助けられなくて・・・・こんな弱い俺をどうか・・・・どうか、永遠に許さないでくれ・・・・本当・・・・に・・・・ごめん・・・・」
「っ?」
影人の懺悔の言葉を聞いたレイゼロールは、意味が分からないといった感じに顔を歪めた。
「どうか・・・・前を向いて・・・・救われてくれ・・・・レイゼ、ロール・・・・」
そして、最後にそう言葉を吐き影人は意識を失った。永遠に。その瞬間、黒い粒子が影人の全身から発せられ、影人の変身は解けた。現れるのは、制服を着た、ただの帰城影人の姿だった。




