第123話 模擬戦(2)
「おお、よく避けるでありますな」
模擬戦を見守っていた新品は意外そうな声で感想を漏らした。
最初こそ少々ぐだぐだとしたが、現在は光導姫どうしの真剣な模擬戦が行われていた。
模擬戦はやはりというべきか、風音が遠距離から攻撃をして陽華と明夜がそれを避けたり、いなしたりという展開が続いていた。
風音は始めの方こそ、自分に距離を詰めようとする陽華のほうを攻撃していたが、その後方から遠距離攻撃を仕掛けてくる明夜にも、新たに式札の光線の数を増やして攻撃した。
「ただまあ、明らかにワンサイドゲームでありますな。会長がいくら手加減しても、あのビームの弾幕を掻い潜って近づくのは、新人の光導姫にとってはほぼほぼ不可能ですからな」
「・・・・・・・・ああ、そうだね。連華寺さんも手加減はしているとはいえ、手を抜いているわけじゃない。別に不可能論を唱えるわけじゃないけれど、新人の夏の研修も受けていない光導姫たちが勝てるほど、『巫女』は甘くはない」
未だに風音は1歩も動いていない。陽華と明夜を攻撃しているのは、風音の周囲に停滞する式札で、風音本人はただそこに立っているだけだ。
明夜などがわざと風音に与えられた隙を突いて、氷弾などを風音に飛ばしたが、それすらも式札の光線が氷弾を砕いた。
(相変わらず凄まじいな・・・・・・・・・)
光司の不安や焦燥はもちろんまだ心の中で燻っているが、久しぶりに風音の戦闘を見ると、思わずそんな思いを抱いてしまう。
光導姫ランキング4位『巫女』。日本だけで言えば、最もランキングが高いため、必然彼女は「日本最強の光導姫」と呼ばれる。そしてそこに誇張はない。そう言われるだけの実力を風音は持っている。
(特に彼女が式札と呼ぶあの札は強力過ぎる・・・・・・・)
今も陽華と明夜に向かって風音は式札の光線を放っている。しかも威力も発射間隔も本来のものとは比べて、極めて弱いし遅い。風音の戦闘を何度か見たことのある光司にはそのことがよくわかる。
「と言っても、この模擬戦は会長があのお2人の実力を見るものでありますし、このままではその目的は達せられないであります。ゆえに、そろそろ会長も動くと思われるでありますよ」
新品が言う動くとは物理的な意味ではなく、何かをするという行動的意味だ。その新品の言葉を証明するかのように、風音に動きがあった。
「第1式札から第5式札、寄りて光の女神に捧ぐ奉納刀と化す」
風音がそう唱えると、計5つの式札が光を放ち寄り集まった。そしてどのような原理かその式札は、鍔のない1振りの日本刀に姿を変えた。
「「ッ!?」」
「ここからは近接戦闘でお相手しましょう」
木で拵えられた鞘から、同じく木の柄を持ち、刀身を抜く。風音は鞘をそこらに放り投げると地を蹴った。
「速っ!?」
驚いている暇もなく、風音は陽華に向かって斬りかかってきた。
陽華はその一撃を両腕を交差してガントレットで受け止めた。
ガキィィィィィィィィィィィン!! と派手な金属音が響いた。
(重っ・・・・・・・・・・!)
風音も光導姫だから当たり前だが、とても少女の力とは思えないような膂力だ。
そして2人にとっては残念なことに、風音はレイゼロールと同じ例外であった。
「陽華!? っ、これで・・・・・・・・!」
一息で距離を詰めてきた風音に驚きながらも、光線による攻撃が止んだことを好機と捉えた明夜が杖を振り、氷の蔓を風音に襲いかからせた。
「! はあっ!」
自分を拘束しようとする氷の蔓に気がついた風音は、ガードを固めている陽華の腹部に蹴りを入れて吹き飛ばすと、目にも止まらぬ斬撃で全ての氷の蔓を切り裂いた。いや、切り砕いたという表現のほうが適切か。
「ぐっ!?」
モロに風音の蹴りを受けた陽華は後方へと吹き飛ばされる。
だが、陽華は光導姫の身体スペックでなんとか空中で体勢を立て直すと、すぐ後ろに迫ろうとしていた壁を両足で蹴った。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
1つの弾丸と化したようなスピードで陽華は凄まじい速度で風音に迫る。そして渾身の右ストレートをその勢いのまま繰り出した。
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