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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1226/2051

第1226話 スプリガンVSレイゼロール、最後の戦い1(4)

「シッ・・・・!」

 影人は思い切り地を蹴り、空へと駆け上がった。浮遊の力を使いレイゼロールへと接近する。

「我が拳よ、敵を砕け」

 右の拳に闇を纏わせ一撃を強化した影人は、レイゼロールの顎目がけて昇拳を放った。

「っ〜!?」

 『硬化』の力を使っているのに、凄まじい衝撃がレイゼロールの脳天へと駆け上がった。

「影闇の鎖、解除」

 昇拳を放つと同時に影人はレイゼロールの拘束を解いた。昇拳の衝撃はそのままレイゼロールを更に上空へと飛ばす。影人もレイゼロールを追うように上空に昇る。

「我が蹴撃よ、敵を落とせ」

 そのまま影人は自分の右足の一撃を強化し、レイゼロールより上に昇ると、その右足を大きく上げた。

(痛いだろうが、悪く思うなよ・・・・!)

 影人は内心でレイゼロールにそう断ると、上向きに飛んでいるレイゼロールの腹部、剣が突き刺さっている場所目がけて、踵を振り下ろした。

「がっ・・・・・・!?」

 剣の柄に影人の踵が直撃し、腹部の剣がレイゼロールの体を貫通する。そして、レイゼロールは稲妻のように地面へと落下した。レイゼロールが落下した地面はクレーターのように凹み、周囲の地面には凄まじい亀裂が生じた。

「す・・・・凄い・・・・」

「あのレイゼロールを・・・・・・」

 その光景を見ていた陽華と明夜は呆気に取られた顔でそんな言葉を漏らした。自分たちが光臨しても手も足も出なかったレイゼロール。そんなレイゼロールを、スプリガンは圧倒している。やはり、スプリガンは凄い。まだまだ自分たちとは強さのレベルが違う。陽華と明夜はそう思った。

「・・・・『世界端現』。影闇の鎖よ、再びレイゼロールを捕らえろ」

 影人は地上に落ちたレイゼロールを見下ろしながら、再び影闇の鎖を召喚した。召喚された影闇の鎖は、地に横たわるレイゼロールに向かって一瞬で伸びると、再びレイゼロールを拘束した。

(よし、これで少しは時間が出来た。この間に・・・・)

 影人は視線をレイゼロールから外し、地上に横たわるある人物の姿を確認すると、そこに降下した。

「っ・・・・・・・・」

「・・・・よう、守護者。虫の息だな」

 影人は血塗れで倒れている光司にそう言葉を掛けた。

「ス、スプリガン・・・・お前・・・・は・・・・・・・・」

「・・・・今にも死にそうなのに、よく言葉を発せられるもんだな。お前のその打たれ強さには感心するぜ」

 影人は光司にそう言うと、右手を光司に向けそこから回復の闇を流した。暖かな闇は光司の全身を包み、光司の傷を全て綺麗に癒した。

「っ、傷が・・・・・・・・」

 ダメージが全て癒えた光司は、驚いたような顔を浮かべ自分の全身を見つめた。そして、立ち上がり影人を睨んだ。

「・・・・いったいどういうつもりだ」

「・・・・別に。ただ死にそうだったから回復してやっただけだ。もう、理由をつけてお前らを助ける必要はないしな」

 睨んでくる光司に、影人は淡々とした口調でそう言った。そして、こう言葉を続ける。

「・・・・・・お前は素直には信じないだろうが、俺はお前たちの味方だ。今までは理由があって敵のフリをしてたがな。だからまあ、安心しろよ」

「お前が僕たちの味方だと・・・・・・・・? っ、確かにお前はいま僕を癒し、あの2人の傷も癒してくれた。だが・・・・俄には信じられない」

「分かってるよ。だから、お前はお前の為すべき事を為せ。あいつらを守ってやれ」

 困惑と疑念が混じったような顔の光司に、影人は陽華と明夜を指差しながらそう言った。そして、影人は光司に背を向ける。

「っ、お前に言われずとも分かってる。朝宮さんと月下さんは、僕が必ず守る。例え力が足りなくても、僕は守護者。守る者だ!」

「はっ、それでいい。やっぱりお前はそうでなくちゃな・・・・・」

 光司の決意の言葉を背中越しに聞いた影人は、小さく笑みを浮かべた。そうだ。圧倒的な力の前でも折れずに、真っ直ぐに守るべき者のために立ち向かう。それこそが守護者。それこそが、影人が敬意の念を払っている香乃宮光司の強さだ。そんな男だからこそ、陽華と明夜の2人を任せられる。

「じゃあ、頼んだぜ・・・・・香乃宮」

「え・・・・・?」

 影人はそう言い残すと、レイゼロールの方へと向かった。影人の呟きを聞いた光司は、ポカンと口を開けこう呟いた。

「何で、僕の名前を・・・・・・・・・・」

 光司はなぜスプリガンが自分の苗字を知っているのか理解出来なかった。












「・・・・・気分はどうだ、レイゼロール」

 レイゼロールの近くにまで移動した影人は、鎖に捕われているレイゼロールに向かってそう言葉を投げかけた。

「ふ・・・・・ん・・・・・最低に・・・・決まって・・・・いる」

 胸と腹部を剣に貫かれ地面に横たわっているレイゼロールは、掠れた声でそう言葉を返した。

「・・・・・だろうな。さて、お前はこの最低の状況からどうする。その鎖は、純粋な力以外では壊せない。その純粋な力も、真祖化したシェルディアレベルの力が要求される。お前にそのレベルの力がなきゃ詰みってやつだ」

 影人はレイゼロールに事実を伝えた。影人の言葉を聞いたレイゼロールは、少しだけ口角を上げるとこう言葉を放つ。

「詰み・・・・か・・・・確かに・・・・我にシェルディア・・・・並みの・・・・力を出す・・・・事は無理・・・・だ。だが・・・・我・・・・には・・・・シェルディアには・・・・ない力が・・・・ある・・・・」

 レイゼロールが言葉を放つと同時に、レイゼロールの全身から闇が噴き出した。同時にレイゼロールの瞳の色が漆黒へと変わる。その闇は、レイゼロールを拘束している鎖や、胸部や腹部に刺さっている剣に触れる。そして次の瞬間、鎖や剣は闇色の粒子となって虚空へと消えた。

「なっ・・・・・!?」

 その光景を見た影人は驚いた声を漏らした。レイゼロールの体から立ち上がった闇は『終焉』の闇だろう。全てを終わりへと導く力。剣が消えたのはまだ分かる。だが、概念の力では壊れない影闇の鎖まで消えたのは意味が分からなかった。

「・・・・・『終焉』の力は触れるモノ全てを終わらせる力だ。その対象は全ての万物。不老不死ですら殺す事の出来るこの力に、壊せぬ鎖など意味を成さない。この力は、概念の先を行く()()()()だ」

 拘束から解き放たれたレイゼロールは自身のダメージを全て回復し、立ち上がりその漆黒の瞳で影人を睨みつけた。

「認めよう、スプリガン。お前はリスクを負って『終焉』の力を使わなければ、勝てない存在となった。ここからは、お前を殺すまでこの力を使い続けよう」

「・・・・そうかよ。なら賭けようじゃねえか。俺がお前に勝ってお前を救うのが先か、お前が俺を殺すのが先か。シンプルにな」

 レイゼロールの言葉に、影人は真剣な顔を浮かべそう返答した。スプリガンとレイゼロール、2人の最後の戦いはまだ始まったばかり。

 妖精の名を冠する男と闇の女神たる女は、互いを睨み合った。

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