第1220話 絶望を切り裂く者(3)
「スプリガン・・・・」
ポツリとそう呟いたのは血塗れで倒れている光司だった。今や光導姫と守護者の敵となった、黒衣の怪人。光司がずっと危険視していた男。
「っ、スプリガン・・・・!? このタイミングでなぜ・・・・・・・・」
光司の視聴覚を共有しウインドウに投影していたラルバは、驚愕したような顔を浮かべた。ラルバのその呟きを聞いたソレイユは、キッパリとした口調でラルバにこう言った。
『私が彼をそこに転移させたからよ、ラルバ。今の今まで彼はある力を得るために修行していた。そしてこの土壇場でその力を修得した。だから、来たの。私たちの味方として、レールを救うために』
「ソレイユ・・・・・・・・? 君はいったい何を言って・・・・・・・・」
ソレイユの言葉を聞いたラルバは意味が分からないといった顔を浮かべ、ソレイユにそう聞き返した。
『あなたが守護者の彼にレールを殺させようとしていたように、私もスプリガンという切り札を用意していたって事よ。ラルバ、取り敢えずあなたに言いたい事はあるし、あなたも私に言いたい事はあるでしょう。だけど、それは全部後よ。今はただ、その目をよくかっぽじって見なさい!』
ソレイユはウインドウ越しにラルバの顔を真っ直ぐに見つめると、力強く言葉を放った。
「スプリガンを、私が最も信頼する彼を! 誰よりも強く諦めないあの男を!」
「っ、スプリガン・・・・!? やはり、あなたが最後の邪魔をしますか・・・・!」
スプリガンの登場に気づいたのは、レイゼロールと戦っていた一部の者たちだけではなかった。ソニアと風音、プロトと戦いながらも、常にレイゼロールの事を気に掛けていたフェリートは、スプリガンの姿を視界の端に収めると、忌々しげにそう呟いた。
「え? ほ、本当だ・・・・」
「スプリガン・・・・・・・・」
「っ、彼があの・・・・」
フェリートの呟きを聞いたソニア、風音、プロトもその視線をチラリとレイゼロールのいる方向に向け、それぞれそんな言葉を呟く。3人ともこの土壇場でのスプリガンの登場に、驚いたような顔を浮かべていた。
「っ、あいつ・・・・」
「ちっ、来やがった・・・・!」
「スプリガン・・・・!」
フェリートに続き、菲やロゼやメティ、その他の守護者たちと戦っていたダークレイ、キベリア、殺花も、ここからは離れたスプリガンの登場に気がついた。
「おー? 何か黒い奴がレイゼロールの前にいるぞ!?」
「おいおい、まだ混沌を極めるっていうのかよ・・・・・・! ふざけやがって・・・・!」
「ほう、これは・・・・・・・・いいね、これが最後の盛り上がり所と見たよ。ああ、だが口惜しい! 追い求めた彼との再会がまさかこんな状況だとは! これじゃあ彼を観察出来ないし絵も描けないじゃないか! おお、神よ!」
メティ、菲、ロゼもそれぞれそんな感想を漏らす。守護者の面々、葬武、エリア、ショット、ノエなども「・・・・奴か」、「っ・・・・」、「オー、ジーザス・・・・」、「何だ? あいつ・・・・」とスプリガンの登場に気づき、それぞれの反応を示した。
「ッ、スプリガンさん・・・・・・・」
「げっ、スプリガンじゃない。あいつ、またこんなカッコいい所で登場したっていうの・・・・腹立つわね!」
ゾルダートやクラウンとの局所戦を終え、ロゼたちと合流していたメリーと真夏も、そう言葉を述べる。ちなみに、メリーに運ばれたハサンは光臨したロゼの能力によって一命を取り留めていた。まだ気を失っているため、後方の安全な場所に寝かされているが。
その他の局所戦を演じていた重傷者、エルミナ、イヴァン、アイティレ、刀時なども、メリーや真夏が回収しロゼの能力によって傷を癒やされていた。ただ、彼・彼女たちも意識を失っているため、ハサンと同じ場所で横になっていた。




