第122話 模擬戦(1)
「明夜! 私が突っ込むから援護お願い!」
「任されたわ!」
陽華が先手必勝とばかりに風音めがけて駆け出す。陽華は近接戦闘が主体であるため、まずは風音に近づかなければならない。
一方、明夜は中~遠距離の攻撃を得意としているので、その場から動かずに陽華のサポートに徹した。
2対1という構図だが、この事は先ほど生徒会室で風音からこのようにすると説明されていた。
いくら風音が日本で最も強い光導姫だからといって、さすがに2対1はどうなのかと2人は風音に言ったのだが、風音は心配はいらないと笑っていた。
何でも「自惚れでは決してないけれど、あなたたちが1人1人私と闘っても勝負にはならないと思う」とのことだ。この発言にはさすがに2人ともムッときたが、風音の言葉に見下すような感情や嘲るようなものはなく、ただただ事実を述べているようであった。
そのため、陽華と明夜は渋々その提案に従った。2人には、まだ卑怯ではないかという感情もあるにはあるが、今はその事は置いておく。
2人はこれから風音に「力」を示さねばならない。
「――式札展開」
風音がそう呟くと、その周囲に札のようなものがどこからか複数現れ、風音の周囲に停滞した。
(ッ!? 何あれ・・・・・・・・!?)
陽華が風音の周囲に現れた札のようなものを見て、眉をひそめる。
「第1、第2式札、光の矢を放つ」
風音の言葉に停滞していた札のようなものが2つ反応した。
その札は白い輝きを放ちながら、陽華めがけて光線を撃ってきた。
「うそッ!? ビーム!?」
思わず声に出して驚いてしまったが、そんな悠長な反応をしている場合ではない。陽華は光導姫の身体スペックをフルに発揮し、なんとかその2条の光線を避ける。
光線はそのままはるか後方の壁にぶち当たり、霧散していった。
「・・・・・・・・・」
「あら、避けられましたか」
ゾッとした表情で陽華と後方に控えていた明夜が、ビームが着弾した壁を見た。そこには黒い焦げ跡のようなものが、白い部屋と対照的にいやに目立っていた。
「では、次は外さないように・・・・・・・・・」
「「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?」」
「はい?」
風音が周囲の札を再び発光させる中、陽華と明夜は風音に待ったを掛けた。まだ模擬戦の開始から1分ほどなのだが、それは関係ない。
「い、今のビームって私が避けなかったら・・・・・・・・」
「陽華に直撃してたんじゃ・・・・・・・」
陽華と明夜が青ざめた顔でキョトンとした顔の風音に言葉を投げかける。陽華が避けれたからいいものの、あれが直撃していれば、今ごろ陽華はどうなっていたことか。
「? うん、そのつもりで攻撃したんだけど・・・・・・」
風音はいったい何を言っているのか、といった感じで首を傾げている。
「いや、当たってたら私死んでましたよね!?」
陽華が悲鳴混じりの声で風音に抗議した。いくら光導姫の肉体が頑丈だとはいえ、あんなものをまともに喰らっては陽華の肉体に綺麗に穴が空いていただろう。
「ああ、その事なら心配しないで。威力はだいぶ弱めて撃ってるし、光導姫の肉体なら軽い火傷くらいしかダメージは負わないから。じゃなきゃ、消し炭にしてしまうでしょ?」
((こ、この人思ってたよりも無茶苦茶だ・・・・・・・・!))
笑顔でそう言い切った風音に陽華と明夜の心境は完全に一致した。
「私からの攻撃は威力を弱めたものしかないしないから、死ぬとか大怪我を負うということは決してないわ。もし怪我をしても、そこは私がなんとかできる。――だからあなたたちは心配しないで全力で私に向かってきて。もちろん、そちらは全力で来てね。でなきゃ、私に触れもしないと思うから」
おそらくわざとだろう。生徒会室の時とは違い、風音は意地の悪い笑みを浮かべながら、煽るようにそう言った。
「「こんの・・・・・・・・!」」
これには肝の冷えていた陽華と明夜もイラッときた。
「上等よ・・・・・・・! やってやろうじゃないの・・・・・・!」
「うん・・・・・・・! ここは思いっきり先輩の胸を借りちゃおう!」
陽華と明夜とてまだ感情の若い高校生。煽られたとあっては、目に物見せてやりたい思うのはごく普通の感情だ。
(うまいこと乗せることができたみたいね・・・・・・)
陽華と明夜の目に闘志が灯る。こうでなくては模擬戦の意味がない。
「陽華、あのビームは出来るだけ私がなんとかするから、最初のプラン通り気にせず突っ込んで」
「わかった明夜。近接に持ち込めばこっちのもんだね・・・・・!」
先ほどの攻撃を見たところ、風音は明夜と同じく中~遠距離攻撃を得意としているとみた。ならば、最初のプラン通り陽華が近接戦闘に持ち込めば、勝機はあるかもしれない。
中~遠距離を得意とする者は近距離が苦手。この法則は多くの者に該当するはずだ。その例外といえば、レイゼロールくらいしか陽華には浮かばなかった。
(日本最強の光導姫って言ったって、レイゼロールほど強くはないはず・・・・・・!)
風音が数少ない例外でないことを心のどこかで願いながら、陽華は拳を構えた。
「では、再開しましょうか」
風音の式札が再び光を放ち始めた。




