第1219話 絶望を切り裂く者(2)
『やーい泣ーかしたー、泣ーかしたー』
「うるせえぞイヴ! 言ってる場合か! ちったぁ空気考えやがれ!」
挙句の果てには、イヴまで面白がって煽ってくる始末だ。影人はキレたようについ肉声でそう言ってしまった。ぱっと見、キャラ崩壊にしか見えない。
「っ、なんだ・・・・・・・・?」
そんな光景を見ていたレイゼロールは、訝しげな顔を浮かべていた。それは至って自然な反応であった。
「ちくしょう、せっかく決めて登場したのに台無しじゃねえか・・・・・・・・」
左手で帽子を押さえながら、影人はため息を吐いた。最後くらいは締まった感じで行きたかったのだが。だが、こうなってしまったものは仕方がない。影人は気を取り直すと、陽華と明夜にこう告げた。
「・・・・・・とにかく、俺はお前らの味方だ。今までは事情があって怪人を演じてた。いきなりこんな事を言われれば戸惑うだろうが・・・・・・信じてくれ」
スプリガン時で、真っ直ぐな言葉を吐く事がほとんどなかった影人は少し気恥ずかしさを覚えた。影人の言葉を聞いた陽華と明夜は、泣きながら何度も首を縦に振った。
「うん、信じる! ずっと信じて来たから! ありがとう、ありがとうスプリガン!」
「もう信じてるから! 何度も何度も、今も私たちを助けてくれたあなたの事を! ありがとう、本当にありがとう・・・・・・!」
「・・・・・・はっ、そうかよ」
2人の言葉を聞いた影人は小さく口角を上げた。
(ったく、よくもまあこんな俺をずっと信じ続けて来たもんだぜ・・・・・・今まで、何回も何回も敵対するような言葉や行動をしてきて、最終的には光導姫と守護者の敵になった俺をよ・・・・・・)
ずっとずっと、スプリガンを信じ続けて来た2人の光導姫。何度も不安な気持ちになっただろう。気持ちが揺らいできただろう。だというのに、陽華と明夜はここまで影人を信じた。それは決して生半可なものではない。誰かを信じ続けるというのは、覚悟が必要なのだ。
(そこまで信じられたなら仕方ねえよな。俺も期待に応えてやるか。朝宮、月下・・・・・)
影人は内心で2人の名を呟くと、小さな声でこう言葉を放った。
「・・・・・・ありがとよ」
そして、影人はレイゼロールの漆黒の瞳をその金の瞳で真っ直ぐに見つめた。
「・・・・・待たせたな、レイゼロール。始めようぜ、俺とお前の最後の戦いを」
「・・・・・ああ、これで正真正銘最後だ。今日ここで、お前との因縁を断ち切る」
「悪いが・・・・・それだけは断ち切らせねえよ!」
「抜かせ・・・・・! 終わりにしてやるぞ!」
影人とレイゼロールは互いにそう言葉を交わし合うと、その足を踏み出し互いに向かって駆け始めた。
――スプリガンVSレイゼロール。その最後の戦いが今始まりを告げた。




