第1217話 絶望(7)
「全てを殺す大鎌か・・・・・・・・ふん、今の我には不要な代物だな」
壮司を蹴り飛ばし「フェルフィズの大鎌」を奪ったレイゼロールは、興味なさげにそれを見つめると力を込めて大鎌を遥か彼方に投げ飛ばした。大鎌は空に消え、やがてどこかに落ちて行った。
「さて、せっかくだ。お前たちは我の『終焉』の闇で殺してやろう。苦しみはない。安らかに眠るように死ねる。慈悲のつもりはないが、幸運だと思うのだな」
「「っ・・・・・・・・!」」
鎌を投げ飛ばしたレイゼロールはその視線を陽華と明夜に向け直した。レイゼロールにそう宣言された2人は、何とか立ち上がろうとしたが、体を動かす事が出来なかった。当然といえば当然だった。2人の体は既に限界を超えているのだから。
(終わり・・・・なのかな。今度こそ、本当に。私たちの最大浄化技も全然届かなかった・・・・)
(結局、私たちがレイゼロールに勝てるはずなんて・・・・)
そして、限界を超えていたのは肉体だけではなく心もだった。2人の胸中は諦めの感情に占められつつあった。戦う意志すらも、消えて行く。
「・・・・・終わりだ、死ね」
レイゼロールが終焉の闇を陽華と明夜へと向かわせる。これで終わりか。全ては終わってしまうのか。そう思われた時、
「――『世界端現』。我が右手よ、終わりを弾け」
空からそんなそんな声が降って来た。黒い影は陽華と明夜の前に着地すると、黒いぼんやりとした闇に染まった右手を終焉の闇に向かって突き出した。その結果、終焉の闇はその右手に弾かれ霧散した。
「なっ・・・・・」
「「え・・・・・・・・・・」」
その光景を見たレイゼロールが口を開ける。防御不能の終焉の闇を弾いたその荒唐無稽な光景に。そして、死を待つばかりであった陽華と明夜は、自分たちがまだ生きている事に驚きながらも、顔を上げた。すると、そこには1人の男の背中があった。
「・・・・・はっ、らしくねえな。勝手に諦めてるんじゃねえよ」
その男は背を向けたまま、2人にそう言った。その声、その背中を見た陽華と明夜は徐々にその目を見開いた。
「あ、あなたは・・・・・・・・・」
「なん・・・・・で・・・・・・・・・」
陽華と明夜が声を漏らす。2人は自分たちを助けてくれたこの男を知っていた。鍔の長い帽子に、黒の外套。胸元には深紅のネクタイ。紺のズボンに黒の編み上げブーツを履いたその男は、首を少し動かし、特徴的な金の瞳でチラリと2人を見つめた。
「「スプリガン・・・・・・・・・・」」
「よう、助けに来たぜ」
その男の名を呟いた陽華と明夜に、その男、スプリガンこと帰城影人はそう言葉を返した。そして、正面を向きレイゼロールに視線を向けると、
「お前もな、レイゼロール」
フッと笑みを浮かべそう言った。
――その男の名前はスプリガン。長らくの間、怪人を演じ光導姫や守護者を助け続けて来た男。もし、スプリガンという名前以外で彼を示す言葉があるとしたら、きっとこんな言葉だろうか。
――変身ヒロインを影から助ける者。
その男、変身ヒロインを影から助ける一匹狼。




