第1215話 絶望(5)
「あ・・・・・・・・」
「そ、そんな・・・・・・・・」
陽華と明夜が信じられないといった顔を浮かべる。瞬間、力が抜け2人は膝から地面に崩れ落ちる。同時に、陽華と明夜に生えていた片翼が消失し、奔流となっていた2人の武器もそれぞれの元へと戻っていった。
「・・・・知ったか? 絶望の一端を」
呆然とする2人にレイゼロールはそう言葉をかけた。光臨状態の最大浄化技をいとも簡単に無力化され、ボロボロの陽華と明夜に対し、レイゼロールは傷1つない。それは、2人とレイゼロールとのどうしようもない力の差を示していた。
「興も失せた。その絶望を刻んだまま死ぬがいい」
全ての力を使い果たし、体もボロボロの2人にレイゼロールは止めを刺そうと右手を向けた。
「――死ぬのは・・・・・・てめえだッ!」
「っ・・・・・・」
だがそんな時、突如としてレイゼロールは自分の後方からそんな声を聞いた。レイゼロールが後ろを振り返る。
「今日こそ死にやがれよッ!」
そこにいたのは全身をナイフに刺され、血で変色した灰色のボロマントを纏った壮司だった。陽華と明夜が最大浄化技を放った瞬間、これが本当に最後のチャンスだと思った壮司は、力の限りを振り絞りレイゼロールへと接近していた。必死なあまり、フードは外れていた。『死神』の素顔が世界に晒された瞬間だった。壮司は、既にレイゼロールに至近距離まで接近し、その手に握っていた刃までもが黒い大鎌をレイゼロールに振るっていた。
「っ、その大鎌は・・・・!」
その大鎌を見たレイゼロールは驚いた顔になる。それは、先ほどまで壮司が握っていた大鎌とは違っていた。いま壮司が握っていた大鎌は、「フェルフィズの大鎌」だった。
壮司が「フェルフィズの大鎌」を握っている理由は、守護者の武器召喚システムを利用したからだった。通常、守護者の武器召喚システムは、武器が破損した場合などに守護者の一定の体力を消費して、再度召喚する事が可能だ。ただし、それは決まった1つの武器しか召喚する事は出来ない。剣なら剣、銃なら銃と言った、そっくり同じ武器しか。
ならば、なぜ壮司は『死神』の武器としての普通の大鎌ではなく、「フェルフィズの大鎌」を召喚する事が出来たのか。それには、ラルバが一枚噛んでいた。ラルバは守護者の神だ。守護者の武器召喚システムを、弄ろうと思えば弄れる。当然、出来る範囲でだが。
ラルバは壮司と契約を結んでから、守護者ランキング4位『死神』としての壮司の武器を、「フェルフィズの大鎌」に設定していた。壮司が持っていた普通の大鎌は、要は守護者専用の武器ではなく、一般の武器であった。そのため、壮司が先ほどまで持っていた大鎌は地面に落ちていた。
結局、何が起こったのか。要は、壮司は初めから変身していたのだ。壮司以外の光導姫や守護者たちは、この地に着いてから変身した。だが壮司は神界に光導姫や守護者が招集されていた時点で、既に変身していた。ラルバは儀式を察知した直後、まず壮司を1番に神界に呼び変身させると、普通の大鎌を手渡した。以上が、壮司が「フェルフィズの大鎌」を召喚出来た理由と、カラクリであった。
「くっ・・・・!」
レイゼロールが対応しようとした時には、既に「フェルフィズの大鎌」の刃がレイゼロールの左の肩口に触れていた。




