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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1202/2051

第1202話 混戦1(4)

「なっ・・・・!?」

 その光景を見た菲が驚いたような声を漏らす。体が霧や陽炎のように揺らめくあの技は、先ほど1度見た。だが、あの技を発動している時は攻撃が出来ないはずだ。菲は殺花が「幻影化」を使用した状況や反撃をしてこなかった事を踏まえ、「幻影化」を緊急回避用の技だと見抜いていた。ゆえに、殺花が反撃した事に菲は驚いた。

 もう1つ、菲が驚いたのは殺花の攻撃力が格段に上昇していた事だった。今までの殺花は、ナイフで黒兵を一撃で両断する事など出来なかった。せいぜいが、黒兵の体に傷をつけたり穿ち刺し傷をつけれたくらいだった。

「・・・・・・・・闇影化の力、これだけだと思うな」

 殺花はそう呟くと、自身の体を闇に変え空中を奔った。その速度は凄まじく、一瞬で後方に控えていた菲やロゼたちの元に到達した。そして、殺花は人型に姿を戻すと菲に向かってナイフを振るった。

「ッ!? 白兵1、私を守れ!」

 急襲してきた殺花に変わらず驚いた表情を浮かべながらも、菲は人形に指示を与えた。近くにいた盾を持った人形は、盾を構え菲を守った。

ざん

 だが、殺花はそんな盾などは無視して黒いナイフを振るった。先ほどまでの殺花ならば、ナイフで盾を斬り裂く事など出来なかった。しかし、影をその身とナイフに取り込んだ殺花は、盾をいとも容易く両断した。そして、殺花は凄まじい速さでナイフを翻し、人形も両断した。

「嘘だろオイ・・・・・!」

「菲くん!?」

 守りを失った菲が冷や汗を流す。ロゼが菲の名を呼ぶ。菲の周囲にいたエリアやノエ、ショットなどが殺花に銃や弓で攻撃を仕掛けるが、弾や矢は煙のように殺花の体をすり抜けるだけだった。

「ふん」

 その結果、殺花の一撃によって菲の体が斬り裂かれた。

「がっ・・・・・!?」

 右袈裟にバッサリと斬られた菲が苦悶の声を上げる。体こそ奇跡的に両断されていないが、かなり深い傷だ。菲は後ろによろけ倒れた。

「っ・・・・・!」

「菲!? 待ってろ今行くぞ!」

 菲が殺花に斬られた事に気がついた葬武とメティ。特にメティは相手をしていたキベリアを無視して、すぐに菲を助けに行こうと、キベリアに背を向け菲たちの方向に駆け始めた。

「6の鋼、全てを圧する御手と化す! 逃すわけないでしょ!」

 キベリアは巨大な鋼鉄の腕を呼び出し、メティを逃すまいとその腕で攻撃させた。

「邪魔だぞ! 今構っている暇はないんだ!」

「1の炎、3の雷、合一し炎雷となる! 今の今まで構ってた奴が、調子のいい事言ってんじゃないわよ!」

 鋼の腕を避けたメティが吠える。そんなメティに苛立ったような言葉をぶつけながら、キベリアは炎と雷を合わせた魔法を放つ。炎雷の球体が複数メティへと襲い掛かった。

「もうしつこいぞ!」

 メティは苛立ったようにそう叫び、何とかキベリアの攻撃を避け続けた。これだけの攻撃は、流石のメティも無視出来なかった。

「・・・・・」

「もちろん、あんたも逃がさないわよ。まあ、分かってるから私に背を向けないんでしょうけど」

 自分を睨みつけてくる葬武に、ダークレイは拳を構えながらそう言った。

「・・・・・『軍師』が傷を受けたのは奴の落ち度だ。俺が奴を助けに行く理由はない。俺はただ強者と戦うのみ」

「・・・・・ああ、あんたそういうタイプ。いるわよね、あんたみたいな守護者」

 葬武の言葉を聞いたダークレイは少し呆れたようにそう呟いた。自分がまだ光導姫だったころ、確かに葬武のような守護者は何人か存在していた。

「知ったような口を利く」

「これでも元光導姫だから。まあ今の私は『闇導姫』だけど」

「ほう・・・・確かに言われてみれば光導姫のような格好と能力をしているな」

「それはそうでしょうね。私のこの姿は、かつての光導姫としての私の姿だから」

 葬武の言葉にダークレイがそう答える。ダークレイの闇の性質は『再現』。文字通り、何かを再現する力だ。ダークレイはその力を使って、かつての光導姫としての自分の力を闇の力で再現していた。陽華と明夜戦で使用した『闇臨』も、かつて取得していた『光臨』の再現だった。

「そうか。しかし、どうでもいい事だ」

 葬武が棍を構えその目を細める。再び仕掛けてくる。それを悟ったダークレイが意識をもう1段階集中しようとした時、


「――私は光を臨もう。力の全てを解放し、闇を浄化する力を。光臨」


 葬武の後方から力の宣言が聞こえて来た。次の瞬間、圧倒的な光が世界を照らした。その光に葬武やメティはそちらを気にし、キベリアやダークレイは目を細めた。

「・・・・・・・・まだ使う気はなかったのだが、仕方ないね。流石に、仲間に死が迫っているのは見逃せないからね」

「っ・・・・」

 光臨の光を放ったのはロゼだった。殺花はそのあまりの光に数メートルほど距離を取り、光臨したロゼを見つめた。

 光臨したロゼの姿は、中々に奇妙というか不思議であった。服装自体はほとんど変わっていない。だが、その左目とロゼの周囲に物が展開している点が変化していた。

 まずその左目、ロゼの瞳の色は薄い青だったが、光臨後はその瞳の色が透明へと、無色なしいろへと変色していた。

 次にロゼの周囲の空間に展開している物。ロゼの周囲には様々な絵の具やパレット、更に何十本もの筆や白紙のキャンバスが複数個浮いていた。

「っ・・・・・・あ・・・・・」

「安心したまえ、菲くん。君は私が必ず助けてみせるよ。ロゼ・ピュルセの名に懸けて」

 多量の出血で意識を朦朧とさせ倒れている菲に、ロゼは優しくそう言うと殺花を見つめ、こう言った。

「柄ではないが、こう言わせていただくよ。ここからは本気以上で行かせてもらう」

 ロゼはそう言うと、右手を側面へと向けた。


 ――混戦はその激しさを増し始めた。

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