第113話 連華寺風音(3)
光司が窓の外の景色を見てそう呟く。かれこれもう車に乗って40分ほどだが、リムジンは揺れること無くスムーズに走っている。永島の運転技術の高さゆえだ。
2人も窓の外の景色を見てみるが、住宅街とところどころの自然があるばかりだ。風景は自分たちの住んでいる地域とあまり変わらない。ということは、車は都心に向かっているのではなく、風洛高校と同じ郊外に向かっているということだろう。
リムジンがスゥと止まった。どうやら目的地に着いたようだ。
「ドライブにお付き合い頂き誠にありがとうございました」
永島がドアを開ける。陽華と明夜はお礼を言いながら、外に出る。光司も2人の後に続いた。
「着いたよ、ここが扇陣高校だ」
3人の前にあるのは、一見普通の高校だ。特徴と言えば、都立の割に敷地面積がやけに大きいことくらいか。実際、正門前から見渡しただけで「広い」というのがわかる。
「ここが・・・・・・」
「光導姫と守護者の集まる学校・・・・・・・」
少し呆けたように明夜と陽華は言葉を漏らす。この高校の話を聞いた時から、いったいどんな高校なのだろうと想像していたが、別段変わった様子は見受けられない。
「ええと、確か人をよこすから案内してもらって言われてたんだけど・・・・・・」
光司がキョロキョロと周囲を見回す。だが、それらしい人物はいなかった。
「――お待ちしておりました。香乃宮さま」
「「「うわっ!?」」
はずだったのだが、その少女はどこからともなく出現した。その唐突さに3人は一斉に驚きの声を上げる。ただ1人永島だけが泰然自若としていた。
「ドッキリ大成功であります。ジッと隠れて粘っていた甲斐がありました。イエーイ」
その謎の少女は無表情でダブルピースを一同に向けた。なんというか表情とのギャップがとても激しい。
「お、脅かさないでほしいな。新品さん・・・・・・・」
光司が困ったようにその少女に呼びかけた。どうやら光司は彼女と知り合いらしく、名は新品というらしい。無表情だが、かなりの美少女である。
「おお、それはすみません。して、そちらの方々がお客様でありますか?」
少し短めな髪を揺らし、新品が陽華と明夜を見た。陽華と明夜は慌てて自己紹介を行う。
「あ、はい。多分そうです。初めまして、朝宮陽華っていいます」
「同じく月下明夜です。よろし燻製チーズ」
「ご丁寧にどうもです。自分は新品芝居と言います。気軽に新品ちゃんと呼んでください。どうぞお見知リンゴ」
登場のしかたで予想出来たことだが、どうやらこの新品という少女はかなり変わっているらしい。その証拠に明夜のボケにボケで返したのだから。
「あなたとは仲良くなれそうね」
「奇遇デスティニー。私もそう思います」
2人はすぐにガシッとした握手を交わした。
「「あはは・・・・・・・」」
陽華と光司は苦笑いを浮かべるしかなかった。
新品からお客様を示すカードを渡され3人はそれを首に掛けた。学校というのは原則的に生徒と関係者以外は入れない施設なので、このような物が必要なのである。
ちなみに永島さんは外で待機してくれている。
「いやはや、しかしウチの生徒会長に会いたいとは。こう言っては何ですがけっこう変わっておられますね」
「え? 今から会う人ってこの学校の生徒会長なんですか・・・・・・?」
「? 異な事を仰りますね。それが目的ではないのでありますか?」
「ええ、そうだけど・・・・・・」
まさか光導姫として会いに来たとは言えない。だが、よく考えなくとも陽華と明夜は『巫女』について、日本で最も強い光導姫としか知らないのだ。『巫女』がこの学校の生徒会長というのはいま初めて知ったことである。
「まあ、今はその事は置いておいて、新品さん、彼女はどこにいるんだい?」
光司が自然に話題を逸らした。3人は新品の後を着いていく形で歩いているのだが、先ほど階段を上り今は2階だ。
「そう急かなくても、もう着きましたよ。――ここが扇陣高校の生徒会室であります」
新品はあるドアの前で足を止めた。上部に「生徒会室」と記されている。
生徒会長ならば、生徒会室にいる。考えれば当然かもしれない。
「では、失礼して。――生徒会長、お客様をお連れしたであります」
新品がその重厚なドアを勢いよく開ける。中は広いが至って普通の生徒会室といった具合だ。生徒会室ということもあって、雰囲気がどことなく風洛高校の生徒会室に似ていると、光司は感じた。
「――ありがとう芝居。ごめんね、無理いっちゃって」
3人から見て正面――上座の位置にあった机に腰掛けていたその少女は、立ち上がり新品に向かって手を合わせた。それに対して新品は「いえいえ。これくらいはお安いご用であります」と返していた。
新品と同じく、扇陣高校の制服に身を包んだ少女だ。長い髪を髪留めで1つに括っている。いわゆるポニーテールと呼ばれる髪型だ。
全身からどこか清涼さを感じさせるその少女は、美しいのだが、美少女というよりは美人といった感じだ。
「久しぶりだね、連華寺さん」
「お久しぶり光司くん。お正月以来ね」
知り合いといっていた通り、2人は仲の良い感じで挨拶をした。だが、光司が少し違和感を覚えたのか言葉を続けた。
「あれ? ちょっと疲れてるかい? 顔色が優れないように思うけど・・・・・・・」
「え? あはは、昨日ちょっとね・・・・・・・・・でも大丈夫よ。ありがとう」
光司にそう答え、その少女は陽華と明夜に目を向けた。2人の間に一瞬緊張が走る。
なぜなら、この少女こそが目的の人物なのだから。
「初めましてお2人とも。今日はここまでおいで頂き、本当にありがとうございます。まずは自己紹介からですね。一応、この高校で生徒会長をやらせてもらっています、連華寺風音と申します。以下、お見知りおきを」
淀みのない仕草で2人に一礼し、その少女――光導姫ランキング4位『巫女』の連華寺風音は笑みを浮かべた。




