第112話 連華寺風音(2)
「「それって・・・・・・・」」
陽華と明夜の言葉が綺麗に被った。その高校の名前は覚えがあった。確か、先輩光導姫のアカツキと出会った時に、アカツキと光司が言っていた、光導姫と守護者が集まる特殊な高校ではなかったか。
「ああ、日本の光導姫や守護者のための学校だよ。彼女はそこに在籍している」
光司がそう言うと同時に、風洛高校の前に1台のリムジンが現れた。
「風洛高校から扇陣高校までは少し距離があるから、勝手ながら車を用意させてもらったよ」
リムジンの運転席から、初老に差し掛かる程の年齢と推測できる男性が降りて、驚いている2人の前に現れた。
「初めまして、お二方。香乃宮家に仕える執事の永島と申します。いつも光司様がお世話になっているようで・・・・・・・」
「永島、僕はもう子供じゃないんだが・・・・・・・」
「ははっ、何を言いますやら。光司様は私からすればまだ子供でございますよ」
陽華と明夜に対して丁寧に腰を折った執事は柔らかな笑みを浮かべ、光司と話をしている。先ほどから驚きっぱなしの2人の心の中はある意見で完全に一致していた。
((お、お金持ちだ・・・・・・・・!))
光司が普段からほとんど金持ちアピールをしなかったから、忘れかけていたが、香乃宮光司といえば超がつくお金持ちなのであった。
「ごめん、2人とも。少しお見苦しいところを見せてしまったね。じゃあ、行こうか」
「どうぞ、朝宮様、月下様」
永島がリムジンのドアを開ける。映画などでリムジンの中は見たことがあったが、実物の中身もとんでもなく豪華だ。(具体的にはホーム○ローン2)
「え、私たちの名前・・・・・・」
陽華が再び驚いたように、執事の顔を見た。香乃宮家に仕える執事は、優しい表情でこう言った。
「光司様からお二人の話は聞いております。とても優しく明るい同級生だと。どうかこれからも光司様と仲良くしていただけませんか?」
「それはもちろんです」
明夜も陽華と同様にそのことには驚いたが、永島の言葉にキッパリとそう答えた。
明夜の言葉を聞いた永島は「おお、ありがとうございます! なにぶん、こう見えて光司様はとてもお友達が少なく――」と言いかけた言葉の途中で、光司が恥ずかしそうに言葉を挟んだ。
「永島ッ! いいから速く運転席に戻ってくれ! ドアは僕が閉めるから!」
顔を赤くさせ、光司はお節介な執事を運転席に戻した。
「た、度々《たびたび》ごめん。またお見苦しいところを見せてしまったね・・・・・」
リムジンの室内で光司は少し疲れたような笑顔を浮かべた。別段、光司は自分のイメージ等というものは気にしていないが、さっきの永島の言葉などにはさすがに羞恥を感じる。光司も思春期なのだからそれは仕方ないのだが。
「全然見苦しくなんかないよ! 永島さん、香乃宮くんのことがとっても好きなんだね!」
「そうね、確かに愛を感じたわ。・・・・・・・それにしてもこれがリムジンの中か、広さがウチの車とは天と地の差ね・・・・・・」
「・・・・・・・ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」
明夜の言葉の後半はリムジンに対する感想だったが、光司を気遣ってくれた言葉に変わりはない。
「よかったら飲み物でもどうだい? といっても、あまり種類は多くないけど」
光司はそう言って備え付けの冷蔵庫を開けてみせた。中にはお酒などの未成年が飲めない物も置いてあったが、ミネラルウォーターやジュースなども見受けられた。
「え、いいの?」
「ほ、本当に・・・・?」
「どうぞどうぞ」
ゴクリと喉を鳴らす2人に光司は笑顔で答えた。グラスを2つ取り出し、陽華と明夜に手渡す。
「リクエストはあるかな?」
「じゃ、じゃあオレンジジュースを」
「私はミネラルウォーターを」
陽華のリクエストはオレンジジュースで、明夜の注文はミネラルウォーターだ。光司はその2つの飲料を取ると、陽華と明夜のグラスにそれぞれ注いでいった。ただのジュースと水なのに普段とは違い高級な感じがすると庶民2人は思った。
「ありがとう、ちょうど喉が渇いてて・・・・・」
「まさかリムジンの中で飲み物を飲める日が来るなんて・・・・・・帰ったらお母さんに自慢しよう。あ、本当にありがとう香乃宮くん」
ちょくちょく庶民さを全開にする明夜に「ちょっと明夜」と陽華がたしなめる。陽華も明夜の気持ちはよく分かるが、それは言葉に出すことではない。明夜もそのことに気がついたのか「ごめんごめん」と言葉を発した。
「そういえば、香乃宮くんは今から会いに行く人と知り合いって言ってたけど、どんな関係なの? あ、もちろん、言いたくなかったら全然言わなくても大丈夫だよ」
以前光司と話したときに、『巫女』とはプライベートで知り合いだと言っていた。もちろん、関係性としては光導姫と守護者ということなのだろうが、いったいどのようにしてプライベートで知り合ったのだろうか。
「その事なら大丈夫だよ。・・・・・・・そうだな、彼女とは小さい時から家どうしのつき合いだったんだけど、偶々守護者と光導姫として再会したんだ。元々、小さい頃からの知り合いだったし、お互い驚きはしたけどまたすぐに仲良くなってね。そういった意味でプライベートの知り合いなんだ」
「それは・・・・・・すごい偶然ね」
「だよね! でもそう言うなら、私達と香乃宮との出会いもすごい偶然だよね。まさか同じ学校で同学年の人が守護者なんだもん。世界は広いようで狭いよね」
陽華が明夜の言葉に同意しながらも、そんな事を言った。陽華と明夜は初めて出会った守護者が風洛高校で有名な香乃宮光司だと分かった時には、大いに驚いたものだ。
「ははっ、確かにね。――さて、そろそろかな」




