第111話 連華寺風音(1)
影人にしては、恥ずかしいやら喜んでもらって嬉しいやらの夜が明けた次の日。
影人はリビングでぼうっとしていた。
(・・・・・・・暇だな)
今日は休日。シェルディアのプレゼントで今月の小遣いを使い果たした影人は、外に出ても何も出来ないので家で腐っていた。
「嬢ちゃんも今はいねえしな・・・・・・」
結局、シェルディアは予定通り今日で帰城家を出て行くらしい。影人の母親が言うには、どうやら影人がいない間に家の電話を使って、どこかに掛けていたようだから、滞在先が決まったのではないかと言っていた。その際、なぜかここの住所をシェルディアに聞かれたらしいが、それがなぜなのかはわからない。
母親は影人に弁当を届けてくれたからもう1泊していけばと提案したが、シェルディアはそれを断った。「とてもありがたいけど、これ以上は遠慮しておくわ」とのことだ。
ちなみに、シェルディアは少し用事があるといってどこかに出かけた。その用事の内容は教えてはもらえなかったが、おそらく滞在先、例えばホテルなどのチェックインをしにいったのではないかと影人は思う。野宿が出来る場所を探しにいったとは考えたくはない。
何にせよ今日であの不思議な少女とはお別れだ。
「・・・・・・・・死ぬほど短かったが、お前ともお別れだな」
影人はソファに置かれている、パンツを履いた猫のぬいぐるみに視線を向けた。
昨日シェルディアにプレゼントしたそのぬいぐるみは、当たり前だが家族にばれた。シェルディアが影人にプレゼントをもらったと嬉しそうに家族に報告したのだ。
案の定、母親には大変からかわれた。「守銭奴のあんたが女の子にプレゼントするなんてねぇ! なに? シェルディアちゃんのこと好きなの!?」などと、ふざけたことを抜かしたので、軽く脛を蹴ってやった。妹は特に何も言ってこなかったが、何か言いたげな顔をしていた。
「しかしお前もえらい気に入られたもんだな。嬢ちゃん、お前を連れて行こうとしてたし」
高校2年生がぬいぐるみに語りかけているという、見ようによっては恐怖を感じる図だが、今それを咎める者は誰もいない。母親と妹もどこかに出かけているからだ。
シェルディアは本当にこのぬいぐるみを気に入っているらしく、出かける時に連れて行こうとしたのだが、影人が止めた。その理由はシェルディアといえど、このソ○ダなる奇妙なぬいぐるみを持って出かければ、奇異の目を浴びることは必至だと感じたからだ。だが、正直にそんなことは言えなかったので、「白いから、日焼けしちゃうぜ」という適当なことを理由とした。シェルディアは渋々ぬいぐるみを置いていってくれたので、本当によかった。
「・・・・・・ゲームでもするか」
1つ大きなあくびをして、影人は自分の部屋へと向かった。
「やあ、朝宮さんに月下さん」
「こんにちわ! 香乃宮くん!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんよ」
休日の昼下がり、3人は風洛高校の正門前に集合していた。
そのためかは分からないが、3人は全員風洛高校の制服を着用していた。
「うーん、休日に制服着るのってなんだか不思議な気分・・・・・・」
陽華が自分の姿を見てそう呟いた。陽華は帰宅部なので休日に学校に来るということ自体がそもそもないのだ。
「そう? 別に普通だけど」
「僕もあまり違和感はないかな」
明夜は書道部に所属しているので、休日にも学校に来ることの方が多い。光司も生徒会の仕事などで休日に学校に来ることもあるので違和感はない。あくまで違和感があるのは帰宅部の陽華だけのようだ。
「そっか・・・・・・これは帰宅部じゃないとわからないかもね」
陽華はそのように納得したが、帰宅部だった人や、現役の帰宅部の人ならば、この気持ちを分かってくれる人は多いはずだ。切にそう思う陽華であった。
「陽華の制服事情はどうでもいいとして、そろそろ行きましょう。香乃宮くん」
「ああ、そうだね」
光司も明夜の言葉に頷いた。
「うう・・・・・緊張するな。今から会いに行く人って日本で1番強い光導姫なんだよね?」
「ああ、そうだよ。といっても気負わなくても大丈夫だよ朝宮さん。彼女はとても優しい人だからね」
そう、今回3人が集まった理由は日本で最も強い光導姫――すなわち光導姫ランキング4位『巫女』と会うためだ。
昨日、光司が陽華と明夜の2人に伝えたことは、明日すなわち今日の昼過ぎならば面会してもよいとの知らせだった。そのため、3人は1度風洛高校の正門に集合して、そこから巫女に会いに行くという算段を立てていた。
「それは嬉しい情報として、私達はこれからどこへ行けばいいの? 場所は香乃宮くんが知ってるって昨日は言ってたけど」
明夜と陽華はまだ光司から巫女との面会場所を聞いていない。詳しい話はまた後日という流れになり昨日は解散したからだ。
「ごめん、まだ言ってなかったね。場所は東京都内、彼女と会う場所は――都立、扇陣高校だよ」




