第109話 あちら側の者(3)
「そいつはまた男の子らしい発想というか、安直というか・・・・・・・うーむ、14~15歳辺りの外国人の女の子へのプレゼントか。しかも予算は3000円ちょっと。こいつはまた難しい注文だね」
「まあそうですよね・・・・・・」
水錫の率直な意見に影人は肩を落とした。水錫の言うとおりだからだ。
「そう肩を落とさないでくれよ少年。一応、おすすめはあるからさ」
しかし、元気溢れる店主はにかっと笑うとそう言った。
「え、本当ですか?」
「うん。ええと、ちょっと待っててね」
水錫は椅子から立ち上がると、店内のあるコーナーに向かった。
(いったい、何なんだ・・・・・・・)
思ってもいない言葉だったので、少し期待してしまう。大人びているとはいえ、シェルディアはまだ子供の部類だ。子供といえば玩具という、水錫の言うとおり安直な考えでここにやって来た影人は、少しの時間レジの前で待った。
「ずばり、私のおすすめはこれだよ!」
「ジャーン!」と言って、水錫が提示してきたのは白いぬいぐるみだった。ただ、普通のぬいぐるみとは少し違う感じがした。
まず猫なのか熊なのか分からないようなぬいぐるみだ。短い手足になぜか青と白のシマシマパンツを履いている。大きさも普通のぬいぐるみよりは大きい。
「あの・・・・・・それは?」
「よくぞ聞いてくれたね! これはソ○ダという猫のぬいぐるみさ! めちゃくちゃ可愛いだろう!? 私が仕入れたんだ!」
水錫は興奮気味の口調でソ○ダなるぬいぐるみを影人の前に突き出してきた。
(か、可愛い・・・・・・・?)
どうやら猫のぬいぐるみだったようだが、黒い目でジッとこちらを見つめてくるそのぬいぐるみはどちらかというと不気味に感じた。
「私も家に置いててね。これよりでかいのも何体もあるよ。一応、この子の値段は税込みで2240円だから金額的にもおすすめだな」
「そ、そうですか・・・・・・・」
果たしてシェルディアがこれを貰って喜ぶかどうか、あまり想像ができない。シェルディアはこれを受け取ってもキョトンとする気がする。というかそっちの方が想像できる。
「ちょっと真面目な話。外国の女の子がどうかまではさすがに分からないけど、ぬいぐるみってけっこうどの層の女性でも好き人は多いんだ。なんなら大人の方が買ってくくらいだし。だからぬいぐるみってけっこう万人受けするわけよ。これが君にこのぬいぐるみを薦めた理由だね」
「・・・・・・なるほど」
そう言われればそんな気もする。ただ、やはり可愛いかどうかは別だが。
「これ以外となると、うち的にはあんまりいいのはないなー。女児向けのならけっこうあるんだけどね」
水錫は苦笑いを浮かべながら、そう言った。無理に商品を押し付けてくることはなく、あくまで自分に任せるということだろう。
その水錫のサッパリ具合を気に入った事もあって影人は、首を縦に振り決断した。
「じゃあ、それを買います」
「お、いいのかい? 私としては確かにおすすめだけど無理強いはしないよ?」
「いえ、俺はそこまで意志は弱くありませんし、嫌ならちゃんと断ります」
こんな見た目をしているが、影人はセールスが来たらしっかりと断れる系の男子である。影人の言葉を聞いた水錫は「おおー、その見た目でまじかい。これがギャップってやつか・・・・・」と驚いていた。
「プレゼントを贈る相手は俺からすれば異性だし、それなら同性の水錫さんが選んだ物の方が喜ばれる確率は高いと思いますし。・・・・・後は、ここで決めなかったら多分ずっと迷うと思う・・・・・が理由です」
一応、シェルディアが影人の家に滞在するのは今日または明日が最後だ。影人の母親ならばもっと滞在しても大丈夫と良いそうだが、タイムリミットは存外短い。
ゆえに迷っている時間は実はないのだ。
「ふーん、そうか。君はけっこう紳士だな。・・・・・よし、わかった! そういうことなら気合い入れてラッピングしちゃう!」
「ありがとうございます」
そう宣言すると、水錫はぬいぐるみを梱包し始めた。ぬいぐるみという柔らかい物を梱包するのは難しそうだなと影人は考えていたが、タカギ玩具店の現店主は綺麗にぬいぐるみを包んでくれた。
「ほい、1丁上がり。じゃあ、悪いけどお代頂いていい?」
「はい」
影人はサイフから1000円を3枚取り出すと、それを水錫に渡した。「まいど!」と言って水錫はそれを受け取った。
「あ、少年スタンプカード持ってない? もし欲しいなら作るけど」
「あるにはあるんですけど、これ最後に押してもらったのだいぶ前なんですよ」
「大丈夫、大丈夫! こんな町中のオモチャ屋さんのスタンプカードに期限なんてないから! じゃあ、貸して」
こちらに手を出す水錫に、影人はサイフに入っていたスタンプカードを渡した。水錫は手際よくスタンプを押していき、押し終えるとそれを影人に返した。
「あとちょっとで500円引きだから、また来てよ! お姉さん待ってるぜ!」
「ええ、またプラモデルでも買いに来ます。ありがとうございました」
商売上手な店主にお礼の言葉を述べて、商品を受け取る。手を振る水錫に会釈を返し、影人は店を出た。
梱包されたぬいぐるみを自転車のカゴに入れて、影人は自宅に向けて自転車を漕ぎ出した。
「・・・・・・・喜んでくれるといいけどな」
少し不安の色が混じった声で影人はそう呟いた。




