第105話 正体(3)
その言葉は闇による次の攻撃の威力を上げるものだった。
バシュゥゥゥと派手な音を立てながら、闇色の弾丸、否、闇色のエネルギーの奔流と化した一撃は放たれた。
「っ!?」
巫女がその奔流に気づく。しかし、闇奴は死角から放たれたその攻撃に気がつく暇も無くその頭部を消し飛ばされた。
(威力は上々だな・・・・・・)
頭部を失い、それでもふらふらと穴だらけの体を動かし続ける闇奴を見ながら、影人はそんなことを考えた。
レイゼロールとの戦いの時、結界を破るために影人は闇で自身の肉体の一撃を強化した。ならば、闇による創造物の攻撃も強化できるというのも可能なはずだ。
(まあ、これは俺が暴走したときにやってたことを参考にしただけだがな)
あの時の自分は闇の剣に闇を纏わせることで、斬撃を強化していた。なら、言葉というプロセスは必要だし、強化できるのも攻撃1回分だが、自分にも出来るということだ。
「・・・・・ただで貸すほど俺の体は安くはないんでな」
自分を操った何かのことを考え、影人はそう呟いた。
「あなたは・・・・・・」
意識を現実に戻すと、巫女がどこか警戒するような目で自分のことを見ていた。
「・・・・・・・・闇奴を浄化しなくていいのか?」
こちらを見つめる巫女に影人はそう言った。そう、まだ闇奴は浄化されていない。影人の攻撃は確かに闇奴の頭部を消し飛ばしたが、浄化の力などは籠もっていない。
「っ・・・・・・・・我が願いにより、彼の者に浄化と安らぎを与えたまえ」
巫女は徐々に頭部を再生しつつある闇奴に向き直り、言の葉を紡いだ。
周囲に停滞していた札から、先ほどと同じく幾条もの光が放たれる。浄化の力を宿したその光に肉体を貫かれた闇奴は、今度こそ地に伏せその姿を人間へと変えた。
「・・・・・・・・終わりだな」
巫女に自分の姿は確認させた。これで今回の自分の仕事は終わりだ。
影人はその場から離れようと足を動かした。
が、
「待ってください!」
巫女はスプリガンを呼び止めた。
「・・・・・・・・・・・・何だ」
別段、無視してもよかったのだが、日本一の光導姫がいったい何を言おうとしているのか、多少の好奇心を抱いた影人は、首を斜め後方に動かしそう聞き返した。
「・・・・・・・あなたが、ソレイユ様のお手紙に記されていた・・・・・・・・・・スプリガン、ですか?」
巫女は自分から少し離れた場所にいる黒衣の怪人に名の確認をした。
「そうだ・・・・・・・と言ったら?」
「ッ・・・・・やはり、あなたが・・・・・・・」
ソレイユから正式にその存在を知らされる前から、名前とその噂だけは聞いていた。曰く、闇の力を扱う謎の怪人。
自分に届けられたソレイユの手紙から分かった情報は、光導姫と守護者を助けたこともあれば、光導姫と守護者を攻撃したこともあるという目的不明の行動。
そして、最上位の闇人とレイゼロールをも退かせたという底知れない戦闘能力。
その怪人がどういうわけか自分の目の前にいる。巫女と呼ばれる光導姫は警戒しながらも、スプリガンに先ほどの行動――つまりはなぜ闇奴を攻撃したのかを尋ねた。
「なぜ、闇奴に攻撃を? まさか、私の手助けをしてくれたのですか・・・・・・・?」
「・・・・・・・・さあな」
「・・・・・・・そうですか。そもそも、あなたいったい何者なんですか?」
| who are you 《お前は何者か》? 影人がスプリガンになって散々問いかけられた質問だ。そしてその問いへの答えはいつだって同じだ。
「・・・・・・・・あんたがさっき聞いただろ。スプリガン、それが俺の名だ」
「・・・・・・・答える気はないということですね」
そうとも言う。と心の中で呟き、影人はこれ以上の問答は面倒だと思い、力ある言葉を放つ。
「・・・・・・・・闇よ、壁と化せ」
影人と巫女の間に闇の壁がそそり立った。この壁はレイゼロール戦のとき自分と他の者たちを隔てた壁とは違い、透過率は限りなく0パーセントだ。ゆえにもう影人も巫女の姿を確認できないし、巫女も影人の姿を確認できない。
影人はその間に静かにその場を去った。




