第104話 正体(2)
「ッ!?」
光は闇奴の右の肩口を貫き、そのまま虚空へと収束した。
「ガァァァァッ!?」
遅れてやって来た痛みに闇奴が悲鳴を上げる。光が貫いた箇所には穴が空き、黒い血が流れ落ちている。
そして光が飛んできた方向からその人物は現れた。
まず目に入ったのはその姿。それは神社などでよく目にする巫女装束と呼ばれるもの。
真白な小袖に緋色の行灯袴。黒く長い髪を赤い髪留めで1本に纏めている。その姿はまさに巫女だ。
ただ、普通とは違う箇所も存在した。
周囲に何か札のようなものが複数浮いている。いや、原理は分からないが正しく浮いているのだ。
「・・・・・・・・・・あれが『巫女』か」
光導姫ランキング4位。いま最も日本で強い光導姫。確かに巫女という言葉がピッタリだが、どこか安直すぎる気がしないでもなかった。
「闇奴・・・・・・人の心の闇が暴走した姿。すみません、私に出来ることはただ願いあなたを浄化することだけです」
『巫女』と呼ばれる少女が闇奴に向かって言葉を投げかけた。その声音はどこか悲しさを含んでいるようでありながらも、透き通るようなものだった。
「ガァァァァァァァァァァ!!」
闇奴も先ほどの攻撃がその少女が放ったものだと分かったのか、怒りの咆哮を上げながら、巫女めがけて突進する。
「願いましょう、あなたのために」
巫女が右手を前方に突き出す。すると周囲の札から先ほどと同じ光が放たれた。
幾条もの光が、向かってくる闇奴の体を次々と貫いていく。
闇奴は再び悲鳴を上げる。当然だろう、あのような光の斉射を浴びれば例え闇奴といえどダメージは計り知れない。
「っと・・・・・・・確かにこいつはすぐに終わりそうだ」
まるで勝負になっていない。影人の視界に広がるのは、あまりにも一方的な展開だった。
闇奴がただただ破壊的な光の攻撃を浴びせられる。それだけだ。
「・・・・・・・・・さて、俺も仕事といくか」
小言でそう呟き、影人はソレイユの言葉を思い出す。
今回の自分の仕事は、『巫女』に自分という存在を確認させること。
ではいったいどのようにして、自分の存在を知らせるか。
「答えは簡単だ・・・・・・・」
影人は遮蔽物から身を現す。まだ巫女も闇奴も自分には気がついていない。
頭の中で思い描くのは銃。そしてそれを自分の右手にイメージする。
が、しかし。
(やっぱりイメージだけじゃ無理か・・・・・・)
あの時は言葉を発せずとも力を使う事が出来たが、やはり自分には言葉に出すというプロセスを踏まなければ力は使えないらしい。
自分を操っていた何かにはそのプロセスが必要なかったいうのは、少し腹立たしくもあるが、今はそうも言ってられない。
「闇よ、銃と化せ」
イメージと言葉に出すというプロセスを経たことにより、スプリガン状態の影人の右手に闇で拵えられた漆黒の拳銃が1丁、形作られた。
影人はすぅと銃を握った右手を突き出し、照準を未だに光に貫かれ悲鳴を上げている闇奴の頭部に合わせた。
「――彼の者を貫く一撃を」
そんな言葉を呟き、影人はその引き金を引いた。
おかげさまで、ブックマークが目標の4分の3に達しました。心よりお礼申し上げます。




