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第14章 囚われの魔女 82.カオス

 ――死。

 ――二度、訪れた死。


 コレットは虚空をさまよっていた。魂の消滅。それが近い事は死神である彼女にはすぐに理解できた。だが一つの未練、それだけが彼女をそこにとどめていた。


(お父様……)

(せっかく……会えたのに……)


 怨念のような嘆き。しかし老僧が唱えつつける念仏が、霊として自縛する事を妨げる。


――メイオウ……デアル……ワレニ……

――ワレニ……フタタビ……


(くっ……)


 おぞましい声。これこそが我がカオス、真の冥王の呼び声。

 かつて、彼は魔王によって葬られた。そして、カオスの厄災が地上へと降り注いだのだ。

 彼もいまだ未練に囚われているのだろう。その意識は、コレットとの同調を始めていた。


(ソウ、ワタクシニ……)


「「――イノチヲ……!」」


 二つの意思は重なった。地の底から響くような声は巨大なうねりを上げ、コレットを呼び起こす。




 目が醒めたコレットは、自分へと寄り添うように倒れた父の亡骸を見つめていた。


『冥王、冥王、しっかり』


 コレットはなにも答えない。


『コレット……? いけない』


 ゲイズにははっきりと見えた。かつて自身がが師事した(カオス)、冥王プルートーの姿が。



 一方、怪物と化した王を相手取っていた白の少女は、コレットの異変に気付き老僧に向かって叫んだ。


「お爺さん、逃げて下さい!」


 だが老僧の様子がおかしい、微動だにせず突っ立ったまま動こうとしないのだ。


「これは……!」


 老僧の正面の肉体は、何かにえぐり取られたかの様に白骨化していた。次第にその現象は全身に及び、残骸は乾いた音を立てて崩れ落ちた。

 コレットは立ち上がり、王に向けて歩き出す。それだけの事だが、コレットから放たれる障気は少女をも飲み込んだ。その姿は、黒く巨大な骸骨の幻像を纏う異形。


「うっ、これは、カオスの暴走……忘却化(オブリヴィオ)!」


 少女に、“死”そのものが形となって襲いかかる。少しばかり触れた髪が瞬く間に灰に変わった。咄嗟(とっさ)に剣をかざし、障気を防ぐ。


「護法剣、クリスタロス!」


 少女は剣で印を刻み、前方に魔法の障壁を展開する。少しでも気を抜けば自分も一瞬で骨になってしまうだろう。


「こうなってはもう……」


 少女は嘆息する。彼女はそれを知っている。自らの運命とも言える存在、オブリヴィオを。


 少女の名は、ヴァレリア。ヴァレリア=グリューエン。

 かつてマレフィカのみで構成された部隊、“夜明けの旅団”に所属していた唯一の生き残りである。


 マレフィカのなれの果て、カオスの顕現(けんげん)。ヴァレリアは幾度(いくど)も同じ光景を見てきた。その全ては、いずれも救いのない結末であった事を少女は記憶している。

 マレフィカという存在の強さ、はかなさ、孤独。それらを嫌と言うほど知る彼女は、また一つ罪を背負う覚悟を決める。


「私のマギアで、あなたもお姉様達の(もと)へ……!」


 コレットは、過度な再生を繰り返し肥大化した王の一部に触れた。それは瞬く間に灰と化すも、再び復元しようと抵抗を見せる。しかし、それも長くは続かなかった。王は指揮系統である脳を守るため肉の壁を張り巡らせたが、コレットの歩みを止めることはできない。


「死ンデ……」


 とうとう、剥き出しになった王が最後に見たものは、巨大な骸骨の化け物であった。

 悲痛な断末魔と共に、かつて王であったものは跡形もなく消滅した。主が不在となった死者の指輪は、自ら主人を選ぶかのようにコレットの指へと収まる。


 さらに溢れ出す障気。これまで見てきたどのカオスより強大な力を前に、ヴァレリアは再び幾重(いくえ)にも障壁を展開した。


「……みなさん、逃げて下さい!」


 彼女は動けずにいた生存者を救出しつつ、あらゆる術式を部屋に配置していく。最後の一人が部屋から脱出したのを見届けると、ヴァレリアは再びコレットに対峙した。


「同じマレフィカとして、あなたを救う事が私の使命……閃光のアルカンシェル、オレイカルコン!」


 ヴァレリアはありったけの術式を発動し、目も(くら)むほどの閃光をコレットにめがけて放った。




 上階で轟音が響いた。

 ロザリーとクリスティアは胸騒ぎを覚え先を急いだ。途中、逃げ出してきたと思われる人々とすれ違う。皆、まるで地獄を見てきたかのような表情をしている。


「コレット……無事でいて」


 そんなロザリーの思いも空しく、二人が辿り着いた時には貴賓室はほぼ崩壊していた。辺りには肉片が散乱し、不快な臭いが立ちこめている。コレットの障気はすでに怒り狂わんばかりに溢れ、二人の生気すらも奪い始めていた。


「どうしたというの? コレット! 返事をして!」

「ロザリー、ここはもう人の立ち入れる場所では……」


 ロザリーはクリスティアの静止も振り切り、部屋の奥へと立ち入った。ふいに、足下に転がっているゲイズを見つけ、ロザリーは拾い上げる。


「ゲイズ……コレットは!?」

『ロザリーか。もう、終わりだよ、ニンゲンは皆死ぬ』

「何を言っているの? しっかりして!」


 ロザリーの後を追い部屋に足を踏み入れたクリスティアは、かつて親身となってくれた老紳士の亡骸を見て悲鳴を上げた。


「宝石商の……なんて事……」

「……にげてください」


 そんな中、二人の前に瓦礫(がれき)からボロボロの少女が現れた。

 身体中が切り裂かれ、純白のきらびやかな装飾が施された鎧も、すでに黒く変色している。それは、コレットとの激しい戦いを物語っていた。


「あなたも……マレフィカ?」


 少女は頷いた。魔法剣で宙に文字を描くと、自らの全身の傷が治癒していく。


「私はヴァレリア。マレフィカを救う者」


 ヴァレリアと名乗った少女は体勢を立て直し、目前に広がる闇に向け再び斬りかかった。彼女からは、白髪の若い男性の姿をした幻像(スペクトル)が見えた。つまり、カオスの力を使いこなしてなお、決着が付かない事態なのである。


「アナタニモ死ヲ」


 闇の中からコレットの声がする。が、同時に何者か別の声にも聞こえた。


「救う……? ならなぜ戦うの!!」


 ロザリーが叫ぶ。その問いにゲイズが答える。


『救いはない。コレットは冥王となった。もう止められる者はいない』

「どういう……、うっ!」


 今度は武舞台から爆発的な気が放たれた。まぎれもなくリュカのものだ。しかし、リュカではない。コレットと同じ異変が起きている事をロザリーはもとより、ロザリーのカオスは感じ取った。


「リュカ……」


 するとロザリーの意識の中に、強制的に負の思念が流れ込む。断片的にその場にうずまく様々な怨嗟(えんさ)が、無防備なロザリーの精神を襲う。


「ぐっ、意識が……」


 その場で倒れるロザリー。めくるめく死の舞台に、悲痛なクリスティアの叫びがこだました。




 気がついたロザリーの前には、一人の女性が立っていた。


 ――我はミラ。ミラ=ケーティ。遙か昔、姫騎士と呼ばれ、カオスの名を受けた者。


 それは、幾度か聞いた心の声の主であった。


「私は確か……意識を失って……。あなたが、助けてくれたの?」


 自らのカオス、ミラは頷く。


 ――(なんじ)よ、今二つのカオスが顕現した。

 ――汝もそれらに飲まれるか、打ち勝つか、試練の時……。

 ――全ては汝に委ねよう。


「私に……」


 ――我は汝。汝は我。それこそが、神化への……。


 全てを聞き終える事なく、再びロザリーの意識は混沌の渦へと飲み込まれていった。




((お父様、わたくしきっと立派なレディに……))

((ああ、楽しみにしているよ))


 これは、コレットの記憶。やさしい思いに溢れている。だが、それは今際(いまわ)(きわ)の出来事のようである。


((わたくし、もういかなくちゃ……))


 ベッドで息を引き取るコレットと、父親との最後の記憶。

 その手には、少女の人形が握られていた。それは、みるみるうちに目玉の怪物と変わる。


((あなたは、王となる存在。これから、永遠の時を生き、無数の死を見届けるのです))


 その声に目覚めたコレットは、父の姿を探した。再び見つけるも彼はこちらへは気づかない。長い時をかけ、彼はやつれていく。そして、次第に干涸らび、ついには(ちり)と化した。


((これが……、死……))


 コレットはさらに出会う者全てが塵と化していく姿を見届ける。そんな中、一人の女性が現れた。


((もう、ひとりぼっちじゃないのよ))


 ロザリーである。コレットへと差し伸べられた手は、しだいにしわがれ、骨となり、風化した。見ている事しか出来ないロザリーは叫びつつける。私はここにいると。


((コレットちゃん、待ってるから!))


 パメラの声。そして、ティセやサクラコ。彼女達も全て、現れては消えた。こちらの声は何も届かない。仲間達の消滅に、意識となったロザリーの精神にも異変が生じ始めた。


((わたくしは……独り……))


 次第にコレットは永い永い生を、暗い暗い闇の中に心を閉ざす事で、何も感じる事は無くなった。


 コレットの抱える闇を見たロザリーの中に、黒く淀んだ感情が芽生える。




((出て行け! 化け物))

((妖仙め!))


 次に現れた少女には石がぶつけられた。リュカの幼い頃だ。

 大好きだった人達が一斉に牙を剥く。リュカは涙をこらえ、人里を離れた。


((あたいは、妖仙なんかじゃない! きっと頑張れば、みんな受け入れてくれる……))


 修行に次ぐ修行の日々、それでもまた、みんなに喜んで貰うためにがんばった。しかし、届かなかった。誰かのために生きた、今までの全てが瓦解した。


((うわあああ!!))


 自らに宿る破壊の力。乾いた心、求めるものは人のぬくもり。

 人里に降りたリュカであったが、人々は噂した、化け物が帰ってきたと。ぬくもりは彼女から離れていく。怒りに支配され、リュカはかつての妖仙と同じ道を辿った。


((あんた……人を……))


 親代わりのおばさんすら、彼女を拒絶した。


 リュカは人々の前から姿を消した。やがて現れるはずのロザリーは、いつまでも現れなかった。


 意識体のロザリーはリュカに何度も呼びかけるが気付いてはくれない。この記憶では、リュカが本物の妖仙へと変貌(へんぼう)していく経緯を眺める事しか出来なかった。

 彼女はありとあらゆる殺戮の果て、最終的に聖女セント=ガーディアナによって命を奪われた。それは、あり得たかもしれない、もう一つの未来。


 リュカから沸き上がる邪念。それはロザリーへと凶暴性を宿した。




 場面が変わり、ロザリーの前に幼いヴァレリアが現れた。

 ヴァレリアは捨て子であった。しかしマレフィカであった事で、ある男に拾われ、たくさんの姉にかわいがられながら幼少期を過ごした。


((お姉様方、きっと帰ってきて下さい、約束ですよ))

((ええ、良い子にしてるのよ))


 ヴァレリアは、姉と呼んだ少女達を戦線に見送る。彼女はマレフィカとして出来損ないであり、力に目覚めなかった。姉たちが戦い、傷つく際に何の力にもなれない。その姿は、かつてのロザリーと重なる。


((どうして私には力がないの……))


 そして姉達は、それぞれが戦火に消えていった。そして、オブリヴィオと化した少女達。それは人々に襲いかかる。自分たちを戦争に送り出す為に育てた親は、そんな娘達に見切りを付け、どこかへといなくなった。

 一人取り残されたヴァレリアはただ、姉との再会を望む。


((お姉様、お姉様……!))


 ヴァレリアは旅の中、忘れられた土地で忘却の魔女達と出会う。

 一人として、ヴァレリアを覚えているものはいない。それは、姉の姿をした醜い化け物。美しい思い出を汚すだけの、なれの果て。


((力が……力がほしい……))


 それからヴァレリアは姉を殺すために強くなった。一人殺す度、一つ思い出を捨てていった。血まみれの手には、憎しみと愛が同居していた。


 いつ終わるとも知れないヴァレリアの絶望が、ロザリーを包んだ。同調する力があまりに高い事で、すでにロザリーは目の前の感情に支配されていた。




 気がつくと、ロザリーは昔の記憶の中にいた。隣には幼いクリスティア。

 二人は、仲睦まじく笑っている。少し、ロザリーとクリスティアの仲が良すぎる事に、ぷくっと頬を膨らませている少女がいた。パメラ=リリウムである。


((ロザリー、わたしを見て……))


 場面は移り変わり、あのローランド戦役のさなか。ロザリーとパメラの二人はガーディアナ侵攻の後も運良く生き延びたが、それ以外の多くの仲間、さらには自分を慕ってくれたマレフィカの少女達は戦禍に倒れてしまった。


((ロザリー、きっと、大丈夫。わたしが守るから))


 弱音を吐いたロザリーにふと、かけられた言葉。その言葉にどれだけの勇気をもらっただろう。しかし、ロザリーは抗えなかった。あの凶獣のような男に。

 そんなロザリーにとっての救いの魔女、パメラの最後の言葉が生々しく再生される。


((ロザリー、元気でね。わたしの事、忘れないで……))


 その時の感情が再び鮮明に甦る。いや、すでにロザリーは、かつての復讐に身を焦がすだけの自分へと引き戻されていた。


「ユルスモノカ……」


 ロザリーは全身を怒りに奮わせ、自身も巨大な力に飲み込まれようとしていた。際限なく溢れてくる憎しみが、さらなる力を呼び起こす。



 そんな中にも、一つの違和感がぬぐえない。心に宿る一欠片の光。それをすくい上げると、彼女の記憶は見たこともない景色を映し出した。



 自分と、それを囲む少女達。

 自分に無邪気に微笑みかける少女――

 調子の良い事を言いながら笑う少女――

 それを少し困った顔で見つめる少女――

 優雅にお茶を飲む少女――

 元気に周囲を駆け回る少女――

 そして少し離れた所から、皆を見守る少女――


 ここまでは分かる。マレフィカの仲間達だ。

 しかし、他にも、見たことのない者達の姿もあった。


 一人、鍛錬に(いそ)しむ女性――

 自分の作った料理を美味しそうに食べている女の子――

 窓から外を眺めている女性――

 そして自分達の輪に入れずにいる少女――


 さらに隣の部屋からは、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。だが、不穏さはない。


 隣の少女が、こちらへと微笑みかけた。それは、二人の少女が重なる姿。

 その光景に得体の知れない安らぎを感じ、ロザリーの心は一瞬我に返った。




「ロザリー、ロザリー!!」


 倒れたロザリーを抱きかかえ、クリスティアが必死にその名を叫んでいる。


「戻ってきて! お願いだから行かないで!!」


 クリスティアはありったけの力を込め、ロザリーに命令、いや、“勅令(エディクト)”していた。彼女の背後を、巨大な建物がうっすら浮かぶ。それは兵士達の勝利を称える凱旋門の様な姿をしていた。フォーマルハウト、彼女のカオスである。


 その(マギア)は強制力を持ってロザリーの意識を正常に戻す。ロザリーは全てに気付いた。今まで見たものは、カオスの共鳴によってもたらされた記憶だと。


「ロザリー……」


 ロザリーは目醒めると、自分にずっと声を掛けていたクリスティアの手を取った。


「……ありがとう、姫。もう大丈夫」


 ロザリーは涙を流していた。それは一人一人の闇と向き合い、マレフィカの孤独に触れた事で、止めどなく溢れてくるものであった。


「私はマレフィカを、闇の中から救ってみせる……。みんな、絶対に!!」



 ――今、汝は目覚めた。

 ――我はミラ。汝のもう一つの姿。



 まばゆい光の中、神々しい鎧を纏った長髪の女性がロザリーに語りかける。


「ええ、私はロザリー。そして……カオス、ミラ……」


 女性はほほえみ、頷く。その手はロザリーの涙をぬぐい、そのままロザリーを抱き寄せた。女性は光の粒子になり、二人は同化していく。



 ――汝にふさわしい力を授ける。運命を変えてみせよ。



 何度も倒れ、それでもなお立ち向かっていくヴァレリア。

 すでに勝機すら見えない戦いに、己の信念の限界を感じていた。

 自身もカオスの力に従い勝利したとしても、そこに意味はない。結局、自分も姉達と、なにも変わらない。マレフィカという鎖は、呪いを産み続けるだけのものでしかなかった。


 この呪いから解放される方法は、ただ一つ。


(私が……お姉様のもとへ行けばいいんだ)


 ふと、力が抜けた。戦闘中だというのに死を受け入れてしまった。ヴァレリアの喉元を死神の鎌が捉える。ヴァレリアは力なく笑みを浮かべた。


「……終わらせない!!」


 何もかもが止まった。目の前には、神々しい鎧を纏ったロザリーが死神の鎌を光を放つ大剣で受け止めている。同時にヴァレリアは不思議な力に触れ、正気を取り戻した。


「私は……何を……」


 ロザリーは鎌を振り払うと、コレットに話しかける。


「大丈夫。あなたはもう一人ではないから、ね」


 そのまま、ロザリーはコレットであったものを抱きしめた。


『ウオオオオ……!!』


 コレットはけたたましい咆哮をあげた。その身体から、黒い思念が立ち昇る。


「これが、この子の苦しみ……」


 ロザリーはそれに向け剣を構えると、退魔剣サザンクロスではなく、それを逆さにしたような逆十字クロス・インバーテッドを、剣閃にて描いた。

 それは、ロザリーのこれまで生きてきた思い、生き様、その全てが乗せられていた。


「コレット、リュカ……。あなたたちは私が救う。これが私の、姫騎士ミラの神化した力(マグナ・マギア)聖域(サンクチュアリ)!!」


 行き場のない黒い思念は、逆十字をその身に刻む。

 さらに、思いを込めた剣閃は一帯へと広がっていく。ロザリーの触媒(カタリスト)の力を伝って。



 一方、武舞台でリュカはロザリーの声を聞く。

 その優しく暖かい声に、リュカは囚われていた闇から逃れた。目前には、ハマヌーンの繰り出す最大の奥義が莫大な気と共に迫っていたが、何故か静止している。

 リュカは力を振り絞りそれをかいくぐると、そのまま倒れ込んだ。



「……おかえりなさい、コレット、リュカ」


 ロザリーが闇から現れ、気を失ったコレットを抱きかかえると、再び全てが元通りに動き出す。


 そこで起きた現象を知る者は、彼女達マレフィカのみである。ハマヌーンの最終奥義は、リュカへと届くことはなかった。その衝撃の余波が、闘技場を半分ほど粉砕したのみである。



「ロザリー……あなた……」


 クリスティアが、ただ、声にならない声を上げる。確かに、神の力を携えた黄金の騎士を見たのだ。

 ロザリーは光の粒子に包まれ、次の瞬間には元の姿に戻っていた。


「ふふ、ただいま」


 そしていつものように母性的な笑顔で、彼女はただ微笑みかけるのだった。


―次回予告―

ひとまずの休息。

彼女達はもう一つの戦いに思いを馳せる。

この空の向こうの、あの子へと――。


第83話「帰るべき場所」

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