第99話:蛇になったのですわ――。
「ヴィク……後のことは……頼んだぜ……」
「お父様!?」
今の一撃で魔力も体力も全てが果てたお父様は、仰向けに倒れ込み、気を失ってしまいました。
そしてその際、お父様の左の拳とリュディガーの右の拳が合わさり、奇しくも5年前にお父様が【好奇神】を倒して、秘密基地からギリギリ脱出した後にしたポーズと同じになったのですわ――。
こうして見ると、この空間だけが、5年前に戻ったみたいですわ……。
もしかしたらリュディガーも、お父様と二人で西へ東へ駆け回っていた時だけは、心の底から笑っていたのかもしれませんわね――。
『ククク、リュディガーくんまでやられてしまったか。騎士団最強とまで言われた彼も、所詮は人の子だったのだね』
「「「――!」」」
その時でした。
天井のほうから、【好奇神】の音声が聴こえてきました。
クッ……!
「【好奇神】、あと残っているのは貴様だけですわ。勿体振らず、さっさと姿を現しなさい!」
『ニャッポリート』
『ククク、まあそう焦らずに。私は屋上にいるから、ここまで飛んでおいでよ。そこで決着をつけようじゃないか』
途端、天井に円形の穴が空きました。
……フム、露骨に罠の匂いがしますが、とはいえここまできて、引き下がるという選択肢はございませんわ!
「ラース先生、ボニャルくん、失礼しますわね」
「は、はい……!」
「にゃっ!?」
『ニャッポリート』
わたくしは二人を小脇に抱えながら、屋上へと飛び立ちました――。
「ククク、ようこそ【武神令嬢】、ラースくん、ボニャルくん。これが小説だとしたら、いよいよクライマックスだね。精々読者が退屈しないような、名勝負にしようじゃないか」
「……【好奇神】!」
広大な屋上の端には、白衣を着た【好奇神】が、ポツンと一人で佇んでいました。
「クカカカカ! やっぱ親父の鎖骨は美味いなぁ!」
いや、正確に言うと、【好奇神】の右肩に乗ったカニタザールが、【好奇神】の鎖骨をベロベロ舐めておりますので、一人ではありませんが……。
この二人が実の親子だということを知ったうえで見ると、何ともおぞましい光景ですわぁ……。
「……らしくないな、【好奇神】。バトル小説じゃないんだから、こんな風に幹部を一人ずつ僕らに当てるんじゃなく、全員一斉に掛かってくれば、もっと楽に勝てたんじゃないのか?」
ラース先生……!?
確かに……、言われてみればその通りですわね。
【好奇神】ほど狡猾な男であれば、その点を見落としていたとは思えませんが……。
「ククク、いやいや、私の計算では、この方法が最も勝率が高かったからこうしたまでさ」
何ですって……!?
「今し方、やっと『準備』が整ったからね。仲間たちに一人ずつ戦ってもらったのは、『準備』を終えるまでの時間稼ぎをしてもらうためだったのさ」
時間……稼ぎ……!?
つまり【好奇神】は、そのためにヴェンデルお兄様たちを捨て駒にしたということですか――!!
「――これで遂に、私は無敵の存在となった。後は私一人でも、十二分に世界を正しい形に創り変えることができる」
「あうアああうアうううああアああ」
「「「――!!」」」
【好奇神】が白衣をはだけると、中は全裸でした。
ですが、それ以上にわたくしを絶句させたのは、【好奇神】の心臓の位置に、ゲロルトの顔が埋め込まれていたことです――。
ゲロルトは呻き声を上げていることからも、どうやらあの状態で生きているようですわ……。
な、何と、惨いことを……!
こうするために、【好奇神】はゲロルトの首を持ち去ったのですか――。
「あくまで私の最終目的は、【魔神の涙】を極限まで進化させたゲロルトくんを取り込むことだったのさ。これによりゲロルトくんの【魔神の涙】と私の体内の【魔神の涙】とが混ざり合い、私は神にも等しい究極の存在へと進化する――! 私の長年の魔導科学者人生は、今この時のためにあったと言っても過言ではない――」
「「「――!!!」」」
その時でした。
【好奇神】の下半身が突如ブクブクと無尽蔵に膨れ上がり、瞬く間にその姿は、天を衝かんばかりの、巨大な蛇になったのですわ――。
こ、これは――!?
「ククク、これこそが私が求めた理想の姿――その名も【世界を呑む蛇】さ。ククククク」
大蛇の頭頂部から生えている【好奇神】の上半身が、わたくしたちを見下ろしながら嗤いました――。




