第70話:あんまりですわ……。
そ、そんな……!?
アメリーさんが、【好奇神】――!?
ですが、【好奇神】はお父様が確実に殺したはず……。
それにお父様の記憶で見た【好奇神】は、年老いた男性でしたわ。
それが何故、こんな若い女性の姿に……?
「「「――!!」」」
その時でした。
結界が展開され、わたくしたちは閉じ込められてしまいました。
なっ――!?
咄嗟にローレンツ副団長に目線を向けると――。
『い、いや、違うぞ!? 俺は何もしてねぇ!』
では、誰がこれを……!?
「ククク、私がやったのだよ【武神令嬢】。知っての通り結界魔導具は私の発明品だ。ハッキングしてマスター権限を奪うなど、造作もないことだよ」
アメリーさんが自慢げに語ります。
なるほど、どうやら目の前のこの人間が【好奇神】であることは、疑いようのない事実のようですわね。
そんな芸当、【好奇神】本人以外には不可能でしょうから……。
ということは――。
「貴様はずっと側で、僕たちの慌てふためく様を見て嘲笑っていたんだな、【好奇神】!」
ラース先生が【創造主ノ万年筆】の切っ先を【好奇神】に向けます。
そういうことになりますわよね……。
こんなに近くに怨敵がいたのに今の今まで気付かなかったわたくしは、本物のマヌケですわ……!
「ククク、別に嘲笑っていたつもりはないんだがね。私はただ愛しい弱者であるこのゲロルトくんに本物の力を授けるため、ゲロルトくんが怪我をするたびほんの少量ずつ【魔神の涙】を与えていただけだよ」
「「「――!!」」」
【好奇神】は「あうアああうアうううああアああ」と呻き声を上げている巨大化したゲロルトを、愛おしそうに見上げます。
……そういうことですか。
【好奇神】はずっと回復魔法でゲロルトの傷を治していたのではなく、コッソリ【魔神の涙】を投与して、その驚異的な回復効果で身体を修復していたのですわ――。
そうして徐々に【魔神の涙】をゲロルトの身体に慣らせていった。
その仕上げとして、先ほど【魔神の涙】を大量に飲ませたことにより、ここまでゲロルトは巨大化したのでしょう。
何のことはない。
【三度望みを叶える魔剣】はあくまでただの剣。
この大会でゲロルトが強かったのは、【三度望みを叶える魔剣】の効果などではなく、【魔神の涙】によるものだったということなのですわ――。
「くっ、では何故貴様はあの時、僕のことを狙った!? ――何故僕の家族を殺したんだッ!!」
ラース先生が涙声になりながら、槍を握る手を震わせます。
ラース先生……。
でも、確かにそれは気になりますわ。
【好奇神】が【魔神の涙】服用者に何度もわたくしを狙わせたのは、自身を一度殺した宿敵である【軍神伯爵】の娘だからというのは想像に難くないですが、ラース先生と【好奇神】の間には、何の接点もなかったはず。
だというのに、むしろ【好奇神】はどちらかと言うと、わたくしよりもラース先生をターゲットにしていた節がございますわ。
いったい【好奇神】はラース先生に、どんな恨みが……?
「ククク、それはもちろん、師匠として君を鍛えてあげるためさ、ラースくん」
「…………は?」
師匠……!?
どういうことです……?
「君は子どもの頃から、ずっと私のことを『心の師』として崇拝してくれていたからね。君から貰ったファンレターには、いつも励まされていたよ。だから私も恩返しとして、君を小説家としてもう一段階上のレベルに押し上げたかったのさ」
「……な、んだと――!」
そんな――!!
まさか、【好奇神】は――!
「私の小説家としてのペンネームはエミル・クレーデル。やっとこうして作家として対談できて、とても嬉しいよ、可愛い弟子のラースくん」




