最終話:『婚約破棄された武神令嬢は小説家を夢見る』ですわ!
「ニャッポリート」
「「「――!」」」
その時でした。
【羽猫の花嫁衣装】が解除され、わたくしの服はいつもの深紅のドレスに戻りました。
そしてニャッポは定位置である、わたくしの左肩にちょこんと乗ったのですわ。
「フフ、ありがとうございますわ、ニャッポ。この戦いに勝てたのは、あなたのお陰ですわ」
「ニャッポリート」
ニャッポはわたくしの頬を、ペロンと舐めてくださいました。
ウフフ、やっぱりニャッポは可愛いですわぁ。
「ヴィク、ラースくん、かっこよかったですわよぉ」
わたくしとラース先生に、お母様が労いの言葉を掛けてくださいました。
お母様……。
「ラース先生」
「はい」
わたくしはラース先生に目配せし、二人でお父様とお母様――そしてヴェンデルお兄様の前に立ちます。
「――わたくしは、ラース先生と結婚したく存じますわ」
「あらぁ、それはよかったですわぁ。おめでとう、ヴィク」
「お、お母様――!」
お母様はわたくしを、ギュッと抱きしめてくださいました。
「ありがとうございますわ、お母様……」
わたくしはお母様を、そっと抱きしめ返します。
「――お父さん、僕を、ヴィクトリアさんと結婚させてください!」
今度はラース先生が、お父様に深く頭を下げられました。
ゴクリ……!
果たしてお父様の返事、は……!?
「――フン、顔を上げやがれ、ラース」
「は、はい……!」
ラース先生が緊張した面持ちで、お父様のお顔をじっと見つめます。
お父様――!
「……ヴィクのことを泣かせたら、俺は必ずお前をブッ殺すからな」
「――! はい! 絶対に、ヴィクトリアさんを幸せにします!」
「……フン、なら好きにしろ」
マア!!
遂にあのお父様が、デレましたわあああああああ!!!!
「ヴェンデルお兄様、どうか天国で、わたくしとラース先生の結婚式を見守っていてくださいましね」
お父様に支えられているヴェンデルお兄様にそう告げると、ヴェンデルお兄様は少しだけ微笑まれたような気がしました。
――さて、わたくしとラース先生の結婚が決まったことを、後でこの場にいないキモ兄が聞いたら発狂しそうですが、まあ、それはわたくしの知ったことではないですわ。
「おめでとうございますにゃ! ヴィクトリア隊長! ラースおにいちゃん!」
いつの間にかボニャルくんも猫化が解除されておりました。
「ウフフ、ありがとうございますわ、ボニャルくん。是非わたくしとラース先生の結婚式では、リングボーイを担当してもらいたいですわ」
「任せてほしいにゃ!」
うんうん、ボニャルくんでしたら、間違いありませんわね。
「ヴィ、ヴィクトリア隊長……」
「……レベッカさん」
最後にわたくしは、号泣しているレベッカさんの前に立ちました。
「お、おおおおおお、おめでどうございまずうううううううううう」
声を震わせながら、それでも必死にわたくしを祝うレベッカさんを見て、わたくしは確信しました――。
――レベッカさんは、わたくしのことを。
「ありがとうございますわ、レベッカさん。――これからもわたくしの右腕は、レベッカさんだけですわ。どうか今後とも、よろしくお願いいたしますわ」
「ヴィ、ヴィクトリア隊長……!」
わたくしが右手を差し出すと、レベッカさんのお顔がぱぁっと華やぎました。
「はいッッ!!!! ヴィクトリア隊長の右腕は、生涯私だた一人ですからッッッ!!!!!!」
うるさッ!?
最後の最後まで、レベッカさんの声はドチャクソデカかったですわぁ~~~~。
……あ、そうですわ。
「ラース先生、実はわたくし、ずっと思っていたことがあるのですわ」
わたくしは愛しのラース先生の前に立ち、ラース先生のお顔をじっと見つめます。
「はい、何でしょうか?」
ラース先生はメガネをクイと上げながら、天使のような笑顔を向けてくださいます。
嗚呼、ラース先生のこのメガネを上げる仕草、一生眺めていたいですわぁ……。
「わたくし、ラース先生と出逢ってから今日までのことを、いつか小説として書いてみたいのです! その際はまた、批評してくださいますか?」
「はい、もちろんです! ちなみにもうタイトルは決まってるんですか?」
「ええ――それはもちろん、『婚約破棄された武神令嬢は小説家を夢見る』ですわ!」
「ニャッポリート」
完




