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第66話 大事だから

 美術室に行くと、めずらしく原先生が来ていた。話を少しして絵を描きだすと、これまためずらしく他の部員が話しかけてきた。

「ねえ、この絵って藤堂君なの?」

「え?」

「彼氏のことを描いてるの?」


「……」

 なんでそんなことを聞いてくるのかな。

「そ、そうだけど?」

「弓道をしている藤堂君でしょ?」

 するとそこに、一緒に弓道部の見学をした子がやってきて、

「藤堂君って、弓道している時かっこいいんだよ。結城さんの絵、上手。あの時の藤堂君をよくとらえてる」

と言ってくれた。


「へえ、そうなんだ。なんだかいつもの藤堂君と違うから、藤堂君だってわかんなかった」

「藤堂君、弓道している時はかっこいいんだ、へ~~」

 そう言って、しばらく私の絵を見てから、自分の絵を描きにみんな戻って行った。だけど、一緒に見学をしていた子だけは残っていて、

「結城さん、付き合いだしたって聞いて、あの藤堂君を見たら、わかる気もするって思ってたんだ」

と言われてしまった。


「え?」

「かっこよかったもんね~。普段はむすっとしていて、何考えてるかもわからないような人だけどさあ」

 その子はそう言うと、自分の席に戻って行った。


 普段、むすっとなんてしてないよ。優しいし、あったかいし、照れると可愛いし…。みんなが知らないだけで。

 なんて思ってから、今の自分はじゃあ、どうなのよって思った。藤堂君は昨日だって、私が母に電話をしているのを聞いて、気にしてくれたのかもしれないのに、私ったら変な意地を張って、もう寝るなんて言ったりして。


 私の裸を見たのだって、藤堂君は私に気遣って、あんなそっけないそぶりをしているのかもしれないし。そんなこと、藤堂君に聞いてみないとわからないことだ。勝手に、あれこれ考えて、勝手に私は落ち込んじゃったけど。


 昼になり、食堂に向かった。食堂にはすでに弓道部の部員がいて、その中には藤堂君もいた。

「あ、結城さんじゃん。こっちに来て一緒に食べない?」

 川野辺君が私に気が付き、声をかけてくれた。でも、

「い、いいです。こっちで食べます」

と私は断り、一人でお弁当を広げた。なにしろ、藤堂君と同じお弁当だ。それだけでも、みんなに何て言われちゃうかわからないし。


「あれ?遠慮してるよ。藤堂、あっちにいって、結城さんと一緒に食べてくれば?」

 川野辺君の声はでかくって、藤堂君に話しかけている声もしっかりと聞こえてきた。そのあと、藤堂君の返答は聞こえず、結局藤堂君はこっちには来なかった。

 なんて川野辺君に返事をしたのかな。気になる。 


 こういうのも、一つずつ藤堂君に聞いていってもいいのかな。だけど、しつこいって思われそうだ。

 ああ、まだまだ私と藤堂君の間には、溝や壁がある気がする。優しくてあったかい藤堂君。なのに私は、どこかで藤堂君に嫌われるのを怖がっているんだ。


 いきなり冷たくなったり、愛想着かされたりしたらどうしよう。怖くて聞けないこともいっぱいあるし、勝手にこうかも、ああかもって思って暗くなっているし。

 これじゃ、片思いをしていた時と、変わっていないよなあ。


 あの頃の相談役は沼田君だった。でも、沼田君とは全くと言っていいほど、最近会話もしていない。美枝ぽんのこともあって、話題にすらのぼらない。

 藤堂君も沼田君と、まったく話をしていないようだし、それは麻衣も同じだった。


 5人でワイワイやっていた頃が懐かしい。ついこの前のことだったのにな。もうあの頃には戻れないのかな。

 そうやって、仲良くなった人ともどんどん、疎遠になることもあるんだな。

 ズキ。私と藤堂君は?


「別れたらきついね」

 兄の言葉を思い出す。一緒に住んでいながら別れることになったら、私はもうあの家にいられないだろう。藤堂君に嫌われたらつらすぎて、顔を合わせるのもつらくなって、さっさと長野に私も行ってしまうかもしれない。


 ハ!なんでまた私は、別れることを前提にした妄想を繰り広げているんだろう。ほんと、暗いよなあ。

 お昼を食べ終え、とぼとぼと美術室に戻った。そして、また絵を描きだした。

 キャンパスの中の藤堂君は、真剣な眼差しだ。


「…」

 そういえば、私は藤堂君を信じてみようって思ったんだよね。嫌われることばかりを恐れて、そういうの、忘れていたかもしれない。

 絵の中の藤堂君を見ながら、私はそんなことを思っていた。


 5時になるまで、無心で絵を描いた。いつの間にか美術室には誰もいなくなっていた。窓からは綺麗な夕焼けが見える。

「ああ、もう5時過ぎていたんだ」

 窓から見える夕焼けを見ながら、私はつぶやいた。


 片づけを始めていると、美術室の前を弓道部の部員が通って行った。その中には藤堂君はいなかった。

「また、部長とミーティングかな」

 片づけも終わったが、私はそのまま藤堂君がドアの前を通って行くのを待っていた。

 一緒に帰れるよね。話、できるよね。


 あれ?昼も何にも話ができなかったから、私は今日一言も藤堂君と話をしていないんだ。ううん、目すら合わせていないかもしれない。


「藤堂、今日の帰り、ドーナツ食べて行かないか?」

という川野辺君の声がしたと思ったら、美術室の前を川野辺君が歩いて行くのが見えた。そのすぐ後ろから藤堂君が、

「ああ、俺、パス」

と言って姿を現した。そしてドアの前で立ち止まり、私がいることに気が付いた。


「川野辺。俺、ちょっと…」

 藤堂君はその場に立ち止まったまま、川野辺君に声をかけた。

「ああ、そっか。結城さんと帰るのか。じゃ、また明日な」

「ああ。わりい。またドーナツ屋は今度な」

「いいって。こっちにあまり気を使うなよ」

 川野辺君はそう言いながら、廊下を歩いて行ったようだ。最後のほうは声がフェイドアウトしていった。


「結城さん、まだいたんだ」

 え?もう帰ったと思ったの?

「俺、遅くなったから、もしかしたら帰っちゃったかなって思ってたんだ」

「…ま、待ってたから」

「俺を?」

「うん。一緒に帰れるかと思って」


「…そっか」

 藤堂君はようやく鼻の横を掻きながら、美術室に入ってきた。

「朝、ごめんね?先に行っちゃって」

「え?ううん。私、寝坊しちゃったし、全然」

 気にかけてくれてたのかな。


「母さん、起こしに行った?」

「うん。8時ごろ」

「そっか…。結城さん、あのあとまた寝ちゃったんだね」

「…?あのあとって?」


 いったい、いつのことを言ってるの?

「5時くらいに起きてたでしょ?」

「え?なんで知ってるの?」

「水飲みに俺も起きたんだ」

 え?


「リビングでメープルと一緒にいたから、邪魔しちゃ悪いって思って、すぐに自分の部屋に戻ったけど」

「邪魔?そんな、全然そんなことないのに…」

「そう?でも、メープルに癒されてたんじゃない?」

「…」

 なんでわかったのかな。私、メープルにどんな話をしていたっけ?


 藤堂君は窓際に行き、夕焼け空を見た。

「朝は曇って雨も降りそうだったのに、天気良くなったね」

「う、うん」

 しばらく藤堂君は黙った。私は椅子に座ったまま、藤堂君の後姿を見ていた。


 藤堂君はずっと外を見ている。その後ろ姿がなんだかとっても遠くに見えて、今すぐに近寄って背中に抱きつきたいくらい、私は切なくなっていた。

「……ね、結城さん」

 藤堂君は後ろを向いたまま、また話し出した。


「え?」

 藤堂君は私のほうを見ないで、

「ご両親と本当に別れて暮らしてもいいの?」

と静かに聞いてきた。


「…え?」 

 どういうこと?

「結城さんはやっぱり、ご両親と一緒に長野に行った方がいいのかなって、ちょっと思えてきて」 

 なんで?なんでそんなこと言うの!?


 藤堂君の顔が見れない。どんな顔をして言ってるの?こっちを向いて話してよ。

 私は席を立ち、藤堂君のすぐ横に行った。そして藤堂君の横顔を覗き込んだ。

「結城さん?」

 そんな私に気が付き、藤堂君は私を見た。藤堂君の顔は夕焼けに染まって赤かった。


「…わ、私、藤堂君の家にいたら、迷惑?」

「違うよ!」

 藤堂君が慌てた表情をした。

「結城さん、母さんが勝手にうちに住んだらいいって言っちゃったから、断れなかったんじゃないかってそう思ってさ」


「わ、私、別に、断る気なんか」

「本当に?家族別々に暮らすの、辛くないの?悲しいんじゃないの?」

 あ、昨日の電話のことで、藤堂君気にしてるの?

「それは…、悲しいし寂しいけど」

「でしょ?」


「だけど、転校する方が、もっと悲しいから」

「……」

 藤堂君は黙り込んだ。そしてまた、窓の外を見た。

「藤堂君は?」

「え?」

「私が長野に行った方がいいと思う?思ってる?」


 藤堂君はこっちを向いた。それからじっと私を見た。そして静かにため息をついた。

「でも、決めるのは結城さんだよね?」

「……」 

 なんでそんなことを言うの?じゃあ、私が長野に行ってしまっても、全然関係ないってこと?藤堂君は悲しかったりしないの?


「俺が勝手に決めることじゃないんだ。それに母さんだって…。勝手に結城さんをうちに来させたけど、本当はもっと結城さんがゆっくりと考えて、一番いいと思う選択をしたらよかったんだ」

「一番いいと思う選択だったと思う」

「え?」

「でも、藤堂君はそうは思わないの?」


「……」

 藤堂君はまた、黙り込んだ。今度は私のほうがじっと藤堂君を見た。

「ごめん」

 え?なんで謝ったの?


「俺、結城さんがうちに来るっていうことだけしか考えてなくって、ずっと浮かれてたんだ」

「うん」

 私だって、浮かれてたよ?

「結城さんは今までいた家を離れて、家族とも離れてうちに来るのに、そういうのまったく考えていなかったんだ」

「うん」

 私だってそれを考えて、悲しくなったのはここ最近のこと。


 藤堂君は下を向いて、はあってまたため息をついた。そして下を向いたまま、話を続けた。

「結城さんが昨日、部屋で電話してるの聞こえてきちゃって…。それで、結城さんが家族と離れるのを寂しがっているってこと、ようやく気が付いた。朝も慣れない家で、きっと寝れなかったり、寂しかったりして早く起きちゃったのかなって思ったら、浮かれてただけの自分が嫌になってきてさ」


 そんなこと思っていたの?

「ほんと、俺って、自分のことばっかりだよなあって。結城さんが離れていくのは、ものすごく嫌なんだ。長野に行くなんてとてもじゃないけど、考えられない。でも、それって俺の勝手な思いなだけだし、結城さんのことを考えたら、何が1番いいのかって、わかんなくなっちゃったんだよね」


「何が1番か?」

「そう。俺のわがままで、そばにいてもらってもいいのかどうか。家族と離れさせてもいいのかどうか」

「…」

「寂しい思いもしているのに、こっちに引き留めてよかったのかどうか…」


 藤堂君はようやく顔をあげ、私の目を見た。藤堂君の目、つらそうだ。

「お母さんやお父さんに会えないのも寂しいし、あの家を離れるのもつらかった」

「そうだよね?」

 藤堂君はもっとつらそうに目を細めた。


「でも、藤堂君と離れるほうが、もっともっと悲しくって、後悔すると思う」

「…え?」

「もし、藤堂君に嫌われたり、呆れられたりして別れるなら仕方ないけど」

「そ、そんなことは絶対に…」

 藤堂君はそう途中まで言いかけて、それから下を向き、

「俺が嫌われることはあっても、俺が嫌うことはないから」

と小声で続けた。


「私が嫌っちゃうってこと?」

「そう。たとえば、風呂場、勝手に開けたりして」

「あ…」

 か~~~。顔が赤くなった。藤堂君をちらっと見たら、藤堂君も赤くなっている。


「き、嫌わないけど、でも…」

 どうしよう。私が気にしていたことを言ってみる?聞いてみる?今の藤堂君なら聞けそう。なんだか、今なら素直に言えそう。


「と、藤堂君、私ってあれだよね」

「え?」

 藤堂君は顔をあげた。もう藤堂君の顔は、いつもと同じポーカーフェイス。赤いのもおさまっている。

「…全然女らしくないし、スタイルもよくないし、藤堂君、がっかりしちゃったんじゃ…」

「え?」


「だから、私のほうが、藤堂君にがっかりされられちゃったんじゃないかなって、私ずっとずっと、暗くなってて」

「……え?」

 藤堂君は目を点にしている。


「だから、その…。藤堂君、何にも反応していないって言うか、私の全裸を見ても、平気な顔していたから」

 あ。とうとう言っちゃった。う~~~、でも本当に気になっていたことだし…。

 でも、何バカなこと気にしてるんだとか、思ったかな。藤堂君、さっきから黙っているし。


「……」

 藤堂君の顔がみるみるうちに、赤くなっている。そして、いきなりその場にしゃがみ込んだ。

「と、藤堂君?」

「……俺が平気なわけない」

「え?」


「あ~~~~。もう~~~。結城さん、なんもわかってない」

「え?え?え?!」

 何が?

「俺がどんだけ必死で、平気なふりをしていたかとか、まったくわかってないよね」

 平気なふり?


「平気なわけないじゃん。がっかりするわけもないし…」

 そ、そうなの?本当?

 藤堂君はしゃがみこんだまま、頭を抱えている。

「結城さん、本気で言ってた?」

「え?何を?」


「自分が女らしくないとか、スタイル良くないとか」

「う、うん。本気」

「……」

 わあ。藤堂君の耳、真っ赤。


「んなわけないじゃん。あ~~、本当に、なんでそんなことを思っているんだか」

「え?」

「俺が、がっかりって、なんでそんなこと…」

「………」

 藤堂君はまだ、頭を抱えうなだれている。


「は~~あ。なんだか、脱力」

「え?」

「俺の方も、嫌われたって思ってた。なんか、結城さん、俺を避けてたし。でも、それだけのことしちゃったんだし、嫌われるのもしょうがないかなとか、あれこれ悩んだし」


 悩んでたの?

「もっと謝るべきかなとか、いや、蒸し返すのも悪いかなとか、やっぱり、気にしないで普通に接しようかなとか、いろいろと…」

「……そんなに悩んでいたの?」

「当たり前じゃん」


 そうだったの?全然わからなかった。

「……誓い立てているし、お父さんに信頼されているし、だから手も出せないし」

「え?」

「なのに、しょっぱなから、結城さんの裸見ちゃったし」

「…え」


「………」

 藤堂君はしばらく黙り込んだ。そしてようやく、顔をあげてから、立ち上がった。

「結城さんさ、母さんが言ってたけど、俺の部屋のほうにぴったりと布団くっつけて寝てたの?」

「う、うん」


「怖かったの?」

「ううん。なんだか、心細くなって。それでかな」

「そっか」

「うん」


「…そうだよね。他人の家に住むんだから、心細いよね」

「う、うん」

 藤堂君は真っ赤だったのに、今はもう普通だ。それに、目がものすごく優しい目になってる。

「俺、風呂場勝手に開けちゃってから、あの誓いを本当に守れるか戸惑った。結城さんともどう接していこうかって悩んだし」

「うん…」


「だけど、結城さんが俺の部屋のほうにぴったりと布団を敷いていたり、電話でお母さんと寂しそうに話しているのを聞いて、やっと気持ちの整理がついたって言うか、決心したって言うか」

「え?」

 なんの?

「俺は、もっと強くなって、結城さんを守ろうって思った」


「…私を?」

「うん。もし、結城さんがどうしてもご両親と離れたくないなら、俺は止めたりするのはやめようって思った。それが結城さんにとって一番いいことなら」

「…」


「それに、こっちに結城さんが居たいって言うなら、この先俺はどんなことがあっても、結城さんを守っていこうって思ったし」

 嘘。そんなこと思っていたの?

「自分でもよくわかんないけど、なんか、すごく結城さんが…」


 ドキン。藤堂君、目がもっと優しくなってる。

「大事に思えて、しかたないんだよね」

「…大事?」

「うん。寂しがったり、怖がったり、心細い思いをしている結城さんが、すごく…、愛しい」


 ええ?!

 バクバクバクバク。藤堂君のその言葉と、優しい目で私の心臓は一気に早くなった。

「結城さん、俺、頼りにならないかもしれないけど、何かあったら話して?さっきみたいに、なんでも…」

「う、うん」

 バクバクバク。


「嫌われるとか、そんなこと思わないでも大丈夫だから」

「う、うん」

 ドキドキ。

「…他にも何かある?気になることや、悩んでることや、俺に聞きたいこととか」

 藤堂君の目も声も、話し方も全部優しい。


「あ、ある」

「何?」

「でも…」

 さすがにこれは…。

「何?いいよ、なんでも聞いてくれて」

 ほんとに?でも、藤堂君だったら、本当に呆れずに聞いてくれそうだ。


「…と、と、藤堂君」

「うん」

「やっぱり、いい」

 恥ずかしい~~。

「結城さん。言いかけてやめられても、俺が気になっちゃうから」

「…本当に呆れない?」


「うん。呆れないから」

「…藤堂君は、その…。私が脱いだ服や下着を洗面所に置いてきたりして、なんてだらしないんだとか、思わなかった?」

「え?あ、ああ。お、思ってないよ。第一、俺が結城さんのこと慌てさせたんだから。逆に申し訳ないことをしたって思っていたよ」

 藤堂君はちょっと顔を赤らめ、そう答えた。


「じゃ、じゃあ、私の下着、色っぽくもなんともなかったでしょ?そう思ったでしょ?」

「え?」

 藤堂君がまた一気に赤くなった。

「だって、平気な顔をして藤堂君、持ってきたもん」

 ヘタ…。また突然藤堂君は、いきなりしゃがみこんだ。あれ?平気じゃなかったの?もしや。


「へ、平気なわけないじゃん!あれだってさ、下着が途中で落っこちた時にはすんごい焦って、拾っていいものかどうかも悩んで、見ないように拾って、とにかく服の上に乗せるので精いっぱいで、そんで持っていったんだから」

 あ、そうだったんだ。


「あ~~~。まいった」

 藤堂君はまだその場にしゃがみこんだまま、顔を真っ赤にしている。

 そうか。そうだったんだ。あれこれ、一人で勝手に解釈して落ち込んだけど、こうやって聞いてみないとわからないものなんだな。


 藤堂君はなかなか立ち上がれず、へたりこんだままだった。私はどうしていいかわからなくなり、一緒にしゃがみこんでみた。ちらっと私を見た藤堂君の照れくさそうな目、キュン!可愛くって胸が思い切り締め付けられた。


 今、思い切り抱きしめたい!なんて衝動に駆られた。でも、私はその衝動を必死に抑え、藤堂君にばれないように下を向いていた。





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